8:心理学・臨床心理学の歴史

近代心理学は,生物学,医学,精神物理学などの影響を受け,19世紀後半頃に成立した。特にヴントWunt, W.(1832-1920)によって1879年ライプチッヒLeipzig大学に世界最初の心理学実...

9:心理学的アプローチ

精神力動的アプローチ 19世紀末にフロイトFreud, S.によって創始された精神分析を起源とし,その流れをくんだアプローチ法が精神力動的アプローチである(→62)。精神分析は4つの時期に大別...

10:生物心理社会モデル

クライエントへの適切な支援や介入を考える際には,多元的な視点を持って情報収集を行い,クライエントの特性や抱えている問題の全体像を把握し,総合的に理解する必要がある。その理解のための枠組みの一つが,1...

11:心の仕組みと働き

科学としての心理学が発展していく中で,個人差を科学的な方法で検証する個人差研究が誕生した。ビネーBinet, A.は精神発達の遅れのある子どもの判定を目的に知能検査を作成し,子どもの知的発達を測定す...

12:研究倫理

ヘルシンキ宣言は,第二次世界大戦やアメリカで行われた人体実験の反省より生じたニュルンベルク綱領を受けて,1964年世界医師会で採択された「ヒトを対象とする医学研究の倫理的原則」であり,周到な計画,自...

13:研究手法

心理学における実証的研究法はその対象と目的によって,量的研究と質的研究とに分けることができる。量的研究とは,尺度得点やある行動の出現回数といった数量的なデータを扱い,分析や結果の記述にあたっても数値...

14:統計手法

量的研究においては,検証したい作業仮説にそった研究計画を立て,研究対象とする集団からランダムに標本を抽出し,質問紙に対する回答などのデータを収集する。データを収集する前に,作業仮説をどのような統計的...

15:統計基礎知識

心理学の研究では,ある特徴をもった個体に対し,何らかのルールに基づいて,数値を振り,データ化することがある。そのようなルールを「尺度」とよぶ。尺度は表す内容に応じて「尺度水準」に分類される。尺度水準...

16:実験計画の立案

実験とは,実験者が状況や条件に何らかの人為的な操作を加え,その結果,検討したい事象に対してどのような影響があったのかを明らかにする研究手法である。操作する要因を独立変数,それによって影響を受けると想...

17:実験データの収集とデータ処理

心理学に関する実験では,検証したい仮説に応じて,実験室における実験のみならず,調査,観察,検査,面接等の実験手続きを用いることができる。調査を用いた実験であれば実験室実験ではPCや実験者によって提示...

18:実験結果の解釈と報告書の作成

心理学における学術論文等の報告書は,問題,方法,結果,考察の章に分けて作成するのが基本である。問題の章では,これまでの研究の流れと,その中から導かれる問題点,およびその研究において明らかにすること,...

19:感覚

あらゆる生活体にとって重要な外界および生体内部の情報を受容する役割を担っているのが感覚である。感覚は受容する刺激(情報)の種類によって,「視覚」「聴覚」「嗅覚」「味覚」「皮膚感覚(触覚を含む)」のい...

20:知覚

知覚とは,生活体が感覚受容器を通して外界や自己の内部状態を捉える働きおよびその過程をさす。感覚も同様の機能を意味するが,感覚は単純な刺激の受容であるのに対し,知覚はより高次の情報処理過程であると定義...

21:記憶

記憶のプロセスは,情報を取り入れる記銘,情報を蓄えておく保持,必要に応じて情報を取り出す想起の3段階で捉えることができる。なお,より情報処理的な用語に置き換えると,各々,符号化,貯蔵,検索となる。記...

22:思考

推論は演繹的推論と帰納的推論に分けて捉えられる。前者は一般的知識から個々の事例を導く推論様式,後者は個々の事例をもとに一般的な知識を導く推論様式である。演繹的推論には2つの前提から1つの結論を導く定...

23:条件づけ

刻印づけ(刷り込み;imprinting)は,初期学習の1つである。初期学習とは,出生直後や出生間もない時期の経験が,その後の行動になんらかの影響を及ぼすことである。ローレンツLorenz, K.は...

24:学習

自身にとって有害な嫌悪刺激が提示されている状況から逃れる反応を獲得することを逃避学習,嫌悪刺激の出現を予告する刺激のもとで,嫌悪刺激の出現を妨げる反応を獲得することを回避学習という。例えば,2つの区...

25:言語理論

言語理論とは,言語の構造などを理解するための仮説や方法論である。言語の構造は,形式(音韻,形態,統語),内容(意味),使用(語用)からなる。これらの諸側面にわたって言語学の分野が設けられている。言語...

26:言語発達

言語発達は生物学的・生得的な要因と環境的・経験的要因およびこれらの相互作用によっていると考えられる。言語獲得にまつわる理論には,学習説,生得説,社会・相互作用説,認知説などがある。チョムスキーCho...

27:言語障害

主な言語障害は,1)聴こえの障害:聴覚障害,2)言語の障害:失語症,言語発達障害,3)話し言葉の障害:構音障害,吃音,音声障害,の大きく3つに分類される(なお2)に高次脳機能障害,3)に嚥下障害を含...

28:感情喚起

感情喚起に関しては,さまざまな感情の理論が仮定され,それらを支持する脳神経学的基盤研究も盛んに行われており,扁桃体,視床下部,島皮質,前頭前野腹内側部などを中心にさまざまな感情の神経生理学的機序の仮...

29:感情理論

19世紀後半,フロイトFreud, S.は精神力動論(→62)を築き上げ,感情間の葛藤とその結果としての表現型(症状)を描き出した。精神力動理論では,人は願望があっても,その表現には不安があって,そ...

30:感情が行動に及ぼす影響

感情の発達に関する研究に,表情研究がある。新生児を対象とした研究では,同じ刺激に対して共通した表情が見られることが指摘されている(Steiner, 1979)。対して,高齢者を対象にした表情研究(中...

31:人格の概念・形成過程

パーソナリティ(人格,性格と訳される)とは,人間の個性の中核をなすものであり,それぞれの個人を特徴づけている,時間的・空間的一貫性のある行動様式である。時間的一貫性とは,多少の波はあっても時間の経過...

32:人格の類型・特性

人の人格とは千差万別であり,個人差も多様である。この人格の特徴を理解,記述するための方法は,類型論と特性論に大別される。類型論とは,個人の人格を全体的特徴によって,単一の類型に分類する方法であるが,...

33:脳神経系の構造と神経伝達物

神経細胞の構造 脳を構成する中枢神経系の最小構成単位が,神経細胞(ニューロン)であり,脳全体の細胞数の10%を占め,1,000億個以上が存在すると考えられており,細胞体,樹状突起,軸索(神経繊...

34:脳の構造と機能局在

中枢神経系は,大脳,脳幹,小脳,脊髄で構成される。また,大脳は,終脳である大脳半球(前頭葉,側頭葉,頭頂葉,後頭葉),大脳基底核,大脳辺縁系,間脳で構成され,脳幹は,中脳,後脳(橋),髄脳で構成され...

35:高次脳機能の生理学的機序と脳機能の測定法

高次脳機能の生理学的機序:意識は,生理学的には覚醒状態と同義であり,脳幹網様体賦活系が重要な役割を担う。注意は,意識と関連し,脳幹網様体,視床,大脳基底核,大脳皮質が関与している。記憶は,関与するP...

36:高次脳機能障害と高次脳機能障害者への支援

学術用語としての高次脳機能障害とは,一般に大脳の器質的病因により,失語,失行,失認など比較的局在の明確な大脳の巣症状,注意障害,記憶障害などの欠落症状,判断・問題解決能力の障害,行動異常などを呈する...

37:対人関係

人が他者に対して抱く好意や嫌悪感などの感情的な評価を対人魅力という。他者に心ひかれるきっかけは,趣味や価値観の類似性,容貌や服装などの外見的なもの,頻繁に顔を合わせるなどの近接性などがあり,個人過程...

38:集団意識・集団行動

社会的影響の代表的なものに社会的促進と社会的抑制があり,これは他者の存在によってある課題のパフォーマンスが高まる/低下する現象のことである。他者の存在が生理的な覚醒水準を高め,行動レパートリーの上位...

39:人の態度・行動

社会的自己はジェームズJames, W.(1892)が分類した自我の内容の1つで,周囲の他者が自分についてもつ印象に基づき自己を捉えることである。このように人は自分についての自分なりの見方や考え方に...

40:家族・集団・文化

家族 近代日本においては,結婚という制度により社会的に認められた形で夫婦となる。この夫と妻という二者により夫婦関係が形成され,この夫婦関係を基本として新しい家族が築かれる。この意味で,夫婦関係...

41:認知の発達

発生的認識論を確立したことで名高いピアジェPiaget, J.(1970/1972)は,認知機能の発達を,感覚運動期(誕生から~2歳ごろまで),前操作期(2~6歳頃まで),具体的操作期(6歳~12歳...

42:社会性の発達

これまで社会性の発達は,さまざまな観点から検討されてきた。古くは,規範意識(自己の行動が社会的期待に合致しているかどうかについての意識)をどう獲得していくのかに焦点が当てられ,ピアジェPiaget(...

43:他者との関係

人間の心理的発達の主たる要因として,気質と環境が挙げられる。気質とは,個人が生まれもった性質のうち,特に情緒面を指すのに対し,環境とは,個人が生まれ育った物理的および心理的状況をいう。両者がどのよう...

44:自己

人が自分の能力や性格,特徴などに関して抱えているイメージを自己概念という。類似した言葉として,自己意識とは,自己の存在への注意の焦点づけであるが,自分の感情や動機,他者には観察できない内面的な自己(...

45:生涯発達の遺伝的基盤

発達は乳幼児期の要因にのみ左右されるのではなく,いずれの時点においても変化の可能性があるとする生涯発達の考え方がある。これは,胎児期から老年期,死に至るまで,獲得と喪失の両面から発達を捉えることを目...

46:ライフサイクル論

ユングJung, C.G.(1946)は,人の一生を「少年期」「成人前期」「中年期」「老人期」の4つの周期(ライフサイクル)があることを指摘した。また,エリクソンErikson, E.H.(1959...

47:非定型発達

子どもの発達には,さまざまな要因が影響している。子どもの身体的な成長に関して,成長段階の時期であるものの身長が伸びないなどの身体的な問題が発生することを成長障害という。器質性の成長障害には,ホルモン...

48:加齢

超高齢社会の日本では,平均寿命も男女共に80歳を超え,心身ともに自立し健康に生活できる期間である健康寿命を延ばすことが必要とされている。生物学的な加齢は「時間経過にともない生理的機能や働きが変化する...

49:高齢者の生活の質

高齢化率が21%を超える超高齢社会である日本では,高齢者といってもその健康状態には個人差が大きく,元気で社会生活を送る人から,日常的生活動作(ADL; activities of daily liv...