9:心理学的アプローチ

9:心理学的アプローチ

精神力動的アプローチ

19世紀末にフロイトFreud, S.によって創始された精神分析を起源とし,その流れをくんだアプローチ法が精神力動的アプローチである(→62)。精神分析は4つの時期に大別される。第1の初期技法の時代では,暗示からカタルシスへと重点を移し,自由連想法を確立し,抑圧や治療への抵抗という現象を明確に把握されてゆく。第2の無意識内容の解釈の時代では,エディプス・コンプレックスや去勢不安に気づき,夢形成の過程を構成し,性の発達段階論を打ち出す。第3の力動的解釈の時代では,クライエントとセラピストとの治療関係における転移と逆転移が発見される。第4の攻撃感情への対処の時代では,陰性感情転移への対応が主要な関心事である。

フロイトの性欲論に反発し,分派したのはアドラーAdler, A. とユングJung, C. G. で,アドラーは個人心理学を,ユングは分析心理学を創始した。フロイト以降,代表的なのは,アンナ・フロイトFreud, A. らが提唱した自我心理学,クラインKlein, M.が提唱した対象関係論,サリヴァンSullivan, H. S. らが提唱した対人関係論,コフートKohut, H. が提唱した自己心理学などが挙げられる。

認知行動アプローチ

認知行動アプローチは,行動療法や認知療法の流れをくみ,両者を統合させたアプローチ法を指す(→63)。1950年代学習理論の応用で行動に焦点をあてた行動療法は,1970年代に入ると認知心理学の発展に伴って,行動療法においても認知の役割が重要視されるようになり,認知行動アプローチが試みられるようになった。それに大きく貢献したのはラングLang, A.とバンデューラBandura, A. である。ラングは,刺激と反応を媒介するシステムは認知・行動・生理の3つのシステムが相互に結合して構成されていることを提唱した。バンデューラは行動変容の鍵として自己効力感を提唱し,行動変容の原理として認知によるコントロールを取り上げ,環境と個人と行動の3者が相互に影響しあう相互決定主義を提唱した。

認知行動アプローチをさらに決定づけたのは,エリスEllis, A.の論理情動療法やベックBeck, A.の認知療法,マイケンバウムMeichenbaum, D. の自己開示訓練などに代表される認知療法の登場であった。これらの認知療法はいずれも認知的なストラテジーと行動的なストラテジーから構成されている。こうしたことから,認知療法と行動療法の統合を試みる認知行動療法(CBT)が誕生した。現在では第3世代認知行動療法として,マインドフルネス瞑想法や,信念の変化に焦点を当てるスキーマセラピー,境界性パーソナリティ障害の治療に特化した弁証法的行動療法などが生まれている。

人間性アプローチ

人間性アプローチは人間性心理学の理論に基づくアプローチ法である(→64)。人間性心理学とは主体性・創造性・自己実現といった人間性の肯定的側面を重視した心理学の潮流で,行動主義や精神分析と一線を画した第三勢力として位置づけられている。

人間性アプローチの代表的なアプローチ法はロジャーズRogersの来談者中心療法であるが,ロジャーズの臨床観の第1期は非指示的カウンセリング,第2期は来談者中心療法,第3期は経験主義的心理療法の時期となっており,3期に「パーソナリティ変化に必要にして十分な条件」を提唱した。第4期は実存主義心理療法で,治療者の3つの基本的態度をあげている。第5期はパーソン・センタード・アプローチの時期。この時期では,ロジャーズは個人よりもグループに強い関心を示し,エンカウンター・グループを発展させた。

ナラティヴ・アプローチ

患者や相談者を理解する際に,彼らの主観を含めた全体性を重視するのがナラティヴ・アプローチである。ナラティブとは物語りである。支援者と要支援者の力関係を排除した対等な治療環境において,会話からもたらされる意味づけ(=ナラティヴ)の変化に治療の可能性を見いだす姿勢を基本とする。

1960年代に入って家族療法と精神分析の2つの学派がほぼ同時期に現在のナラティヴ・アプローチに近しいものを提唱し始めたことも指摘されているが,基本的には,社会構成主義やポストモダニズムに影響を受けた心理療法のことを指す。援助対象の物語を重視する実践として1980年代後半に始まったホワイトWhite, M. とエプストンEpston, D. らのナラティヴ・セラピーがその嚆矢である。

社会構成主義

「知識は個人の頭の中にある」のではなく,「知識は社会関係の中にある」という考え方で,1990年代にアメリカの社会心理学者ガーゲンGergen, K. J.によって提唱された。社会構成主義的な立場に立つ心理療法として,ナラティヴ・セラピーブリーフ・セラピーSFA(ソリューション・フォーカスト・アプローチ),リフレクション・プロセス,オープンダイアローグなどが挙げられる。これらの心理療法はセラピストとクライエントの関係性を重視し,無知の姿勢や治療的対話に注目した,平等で個別的な臨床実践を特徴とする。

(葛 文綺)

文  献
  • 乾吉佑・氏原寛・亀口憲治・成田善弘・東山紘久・山中康裕編(2005)心理療法ハンドブック.創元社.
  • McNamee, S. & Gergen, K. J. (eds.)(1992)Therapy as Social Construction. Sage Publications.(野口裕二・野村直樹訳(1997/再刊2014)ナラティヴ・セラピー―社会構成主義の実践.遠見書房.)

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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