40:家族・集団・文化

40:家族・集団・文化

家族

近代日本においては,結婚という制度により社会的に認められた形で夫婦となる。この夫と妻という二者により夫婦関係が形成され,この夫婦関係を基本として新しい家族が築かれる。この意味で,夫婦関係は家族の最も中心的な関係といえよう。しかし,夫婦になったからといってその関係を維持するのは容易ではなく,さまざまな生活上の課題や危機に直面し,その課題を乗り越えていくことが求められる。さらに,夫と妻は,それぞれが生まれ育った原家族や拡大家族から,さまざまな水準で多大な影響を受けているため,夫婦関係は個人という単位を超えた,文化的,歴史的に異なる家族が結合した関係といえる。ここでは個人的な価値観の相違もさることながら,育児に関する考え方,養育信念の相違として顕在化することがある。育児とは乳幼児の保護や世話,養育に関する行為であり,この行為を通して,夫は父親として,妻は母親として,新たな役割を担う。養育信念とは,親(養育者)が子どもに対して抱く,育児やしつけ,期待,能力,発達のあり方などに関する多様な信念を意味する。育児や子育てという行為に伴い,夫婦関係や親子関係では,さまざまな情緒的なコミュニケーションが取り交わされる。家族の情緒的風土とは,家族内の相互作用を通して形成される家族内に漂う情緒的な環境や雰囲気であり,家族メンバー同士の結びつきや親密性,力関係やそれらの柔軟性と関連し,家族機能として子どもの情動的発達や行動に影響する。

家族メンバー間の複雑なコミュニケーションと関係性を理解し,家族成員に起こる問題を説明するためには,家族を一つのまとまりをもった有機的システムとして捉える家族システム論が有用である。家族システム論は,フォン・ベルタランフィvon Bertalanffy, L.のあらゆるシステムに共通する原理を示した「一般システム理論」に端を発するが,家族システム内外の変化と連動して逸脱を制御し,形態を維持,安定させる自己制御性やシステムの発展や変化を増幅する変換性といった概念が導入され展開している(若島,2018)。家族システム論を理解する上で,1)家族成員や家族システム自体の発達,そして過去を含めた原家族との関係をとらえる発達的側面,2)ある時点での家族構成員の結びつきや階層性,ルール,つながりの質,関係性の在り方をとらえる構造的側面,3)家族成員間のコミュニケーションや繰り返されるパターンといった問題を取り巻く相互交流過程をとらえる機能的側面という3つの属性は重要である。家族療法とは広義には家族を対象とした心理療法を意味するが,狭義には上記の家族システム論の属性に依拠した心理療法を意味する(→⑮4)。

集団と文化

さらに,家族内の諸関係の在り方のみならず,家族を社会に開かれたシステムとして捉え,社会的な環境との相互影響過程も考慮した生態学的システム論の視点も不可欠である。ブロンフェンブレンナーBronfenbrenner, U.は,1)個人が直接的に関わる,あるいは所属する水準にあるマイクロシステム(家族,学校,会社など),2)マイクロシステム間の交流する水準にあるメゾシステム(集団関係),3)親が所属する職場や組織における何らかの出来事が子どもに影響するといったように個人が間接的に関わるエクソシステム,そして4)個人や家族,コミュニティが所属する文化,社会といったマクロシステムという4層構造を仮定する。また,ベイトソンBeteson, G.は,精神(mind)を相互作用するネットワーク上に位置付け,個々を結びつけるパターンにより説明した。いずれも,個人を取り巻く環境は,個人の行為や発達,臨床上対象となる問題などさまざまな現象と切り離せない不可分なものとして捉え,家族や所属集団,コミュニティや文化といった文脈に位置付けて理解する必要性を指摘している。

個人や家族に影響する社会的文脈として,個人主義集団主義が挙げられる。個人主義とは自分自身を集団と独立した存在としてみる個人が緩やかに結束している社会であり,集団主義は自分自身を集団の一部としてみる個人が強く結束している社会である。こういった社会のなかで,個人には,ある文化において歴史的に共有されている自己についての認識,すなわち文化的自己観が形成される。個人主義文化圏の西洋では個人の能力や性格が自己認知において重視される相互独立的自己観が,集団主義文化圏の東洋では他者や周囲の状況に溶け込むことが自己認知において重視される相互協調的自己観が優位であるとされる(Markus & Kitayama, 1991)。一般的に適応とは,環境の要求に応じて経験する変化のことであり,海外移住者は長期間にわたり,現地社会の文化に直面しながら適応していく。このようなプロセスを異文化適応という。特に人が異文化適応を経験するなかで用いる戦略を文化変容態度とよぶ。ベリーBerry(1997)によれば,現地文化への親密度と母国文化への親密度によって文化変容態度は4つに分類される。1)母国の構成員としてアイデンティティを求める分離,2)移住国の構成員としてアイデンティティを求める同化,3)両方に該当する統合,4)いずれにも該当しない周辺化である。

(狐塚貴博・兪幜蘭)

文  献
  • Berry, J. W.(1997)Immigration, Acculturation, and Adaptation. Applied Psychology: An International Review, 46; 5-68.
  • Markus, H. R., & Kitayama, S.(1991)Culture and the self: Implications for cognition, emotion, and motivation. Psychological Review, 98; 223-253.
  • 若島孔文(2018)システミック・アプローチ.In: 野島一彦・繁桝算男監修,野島一彦・岡村達也編:公認心理師の基礎と実践(3)臨床心理学概論.遠見書房,pp.99-112.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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