30:感情が行動に及ぼす影響

30:感情が行動に及ぼす影響

感情の発達に関する研究に,表情研究がある。新生児を対象とした研究では,同じ刺激に対して共通した表情が見られることが指摘されている(Steiner, 1979)。対して,高齢者を対象にした表情研究(中村・益谷,2001)では,幸福の表情は上手く演じられるが,恐れ,嫌悪,軽蔑に関しては何を演じているのか判別できなかった。これには,どのような場面でどのような表情をすべきかについての文化的取り決め(表示規則)が影響している可能性が考えられる。このことから,感情の発達は,生物学的側面に加えて,感情と社会・文化の関連も踏まえて理解する必要があると言える。不安,怒り,喜びといった個別の感情は,変化し得る一過性の状態として理解されている。一方で,「陽気」「神経質」といったある個人に特有の性格傾向としての感情があることも知られている。こうした感情の個人差感情特性)は,当然個人の表出行動にも影響を及ぼす。たとえばタイプAパーソナリティの者は,強い敵意・攻撃性と,承認欲求を持っているため,過度に競争的になりがちで,冠状動脈性心臓疾患への罹患率が通常の2倍もあることが知られている。このことから,感情と表出行動感情と心身の健康の深いつながりがうかがえる。また,ネガティブな感情状態においては認知の在り方もネガティブとなることが知られている(気分一致効果)。しかしながら,自己の思考や行動をモニターし,それらを望ましい方向に変える自己統制の力も人間には備わっている。感情と認知は互いに影響し得るものであり,ゆえに心理療法において認知を扱うことは有用と言える。

(和田浩平)

文  献
  • 中村真・益谷眞(2001)高齢者の感情表出―演技された表情の実証的検討.感情心理学研究,7; 74-90.
  • Steiner, J. E.(1979)Human facial expressions in response to taste and smell stimulation. Advances in Child Development and Behavior, 13; 257-295.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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