42:社会性の発達

42:社会性の発達

これまで社会性の発達は,さまざまな観点から検討されてきた。古くは,規範意識(自己の行動が社会的期待に合致しているかどうかについての意識)をどう獲得していくのかに焦点が当てられ,ピアジェPiaget(1932)は,道徳的判断が,家庭の中で発達する他律的道徳から人間関係が広がっていくことによって自律的道徳へと発達していくとした。コールバーグKohlberg(1976)は,3水準6段階からなる「道徳性の発達段階」を提唱し,「前慣習の水準」「慣習の水準」「脱慣習の水準」へと発達するとした(表1)。また,ホフマンHoffman(1987)は道徳性の発達の研究から,共感性を検討し,自他の区別があいまいな共感から,さまざまな状況・人に対しての高次な共感性まで4段階に分類し,「共感喚起理論」を提唱した(表2)。共感性は現段階で統一した定義が確定していないが,「相手の感情を理解すること」「相手の感情を自分も同じように感じること」といった認知と感情の両面から検討されてきている。

表1 道徳性の発達段階(Kohlberg, 1976)

表2 共感性の発達(Hoffman(1987)などを参考に作成)

社会的な期待や承認に沿って自分の感情や行動を抑制したり表現したりする機能を自己制御機能と呼ぶ。外的統制によって行動を制御する段階から,自分の意思によって行動を制御する段階へと発達するとされ,自己抑制機能と自己主張機能の2側面から研究が行われてきた。特に,感情の制御とは感情の発生した状況で,感情の内的状態を変える能力であるとされ,感情の内的状態の制御と感情表出の制御の2つの次元が存在する。また,向社会的行動は,アイゼンバーグ(Eisenberg, 1986)によって「他人あるいは他の人々の集団を助けようとしたり,こうした人々のためになることをしようとしたりする自発的な行動」として定義され,「快楽主義的・自己焦点的指向」から「他者の要求に目を向けた指向」,そして「承認および対人的志向・紋切り型の指向」へと発展し,さらに「自己反省的な共感指向」へと向かうとされる。最近では,向社会的行動の自己制御機能との関連や,動機づける要因としての共感が注目されている。

子どものもつ概念構造は素朴理論とされ,心の理論もその一つである。プレマックPremack et al.(1978)は,心の理論について,自己および他者の欲求や信念,意図などの心の状態を帰属させ,それらの心の状態を用いることによって行動を説明,理解あるいは予測する能力として定義している。ただし,狭義には,自分の考えとは異なる他者の誤った考え(誤信念)や行動を推測する能力のことを意味することもある。サリー・アン課題といった誤信念課題を用いた研究によって,定型発達の子どもは4歳程度で心の理論を獲得するが,ASD児は遅れて獲得することがわかってきている。また他者の心的状態を見出したり,推理することはメンタライジングと呼ばれ,他者の誤信念を理解する「心の理解」が関係しているとされている。なお,精神分析の分野ではメンタライゼーションを自己/他者の2つの心への注意を含む精神的精緻化のプロセスと定義しており,これを用いた臨床的手法が提唱されている。また,目標に到達するために行動や思考の計画,調整,コントロールなどを行う実行機能と,心の理論との関連も検討されてきている。実行機能は,前頭葉にその基盤を持つとされ,単一の能力であるというよりも,複数の下位機能から構成された制御過程の総称である。

ここで述べてきたような自己や他者の感情を観察・識別し,自己の思考や行動を決定する能力をゴールマンGoleman(1995)は感情知性と呼んだ。また集団の中で適応していくパーソナリティ特性の一つとして,互いに利益になるように協力して行動し問題を解決する協同行動を起こす傾向は協調性としてとらえられてきている。

(吉田翔子・永田雅子)

文  献
  • Eisenberg, N.(1986)Altruistic Emotion, Cognition, and Behavior. Hillsdale: Lawrence Erlbaum Associates.
  • Goleman, D.(1995)Emotional Intelligence. New York: Bantam Books.
  • Hoffman, M.(1987)The contribution of empathy to justice and moral judgement. In: Eisenberg, N. & Strayer, J.(Eds.): Empathy and Its Development. Cambridge: Cambridge University Press, pp.47-80.
  • Kohlberg, L.(1975)Moral Stage and Moralization: The Cognitive-developmental and Social Issues. New York: Holt, Rinehart & Winston, pp.84-107.
  • 子安増生・郷式徹(2016)心の理論 第2世代の研究へ.新曜社.
  • Piaget, J.(1932)The moral judgement on the child. London: Routledge & Kegan Paul.
  • Premack, D. & Woodruff, G.(1978)Does the chimpanzee have a theory of mind?  Behavioral and Brain Sciences, 1(4); 515-526.
  • 山本多喜司編(1991)発達心理学用語辞典.北大路書房.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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