44:自己

44:自己

人が自分の能力や性格,特徴などに関して抱えているイメージを自己概念という。類似した言葉として,自己意識とは,自己の存在への注意の焦点づけであるが,自分の感情や動機,他者には観察できない内面的な自己(私的自己意識)と,容貌や言動など他者からも観察可能な外面的な自己(公的自己意識)に区分される(Fenigstein et al., 1975)。人は,2歳前後頃の幼児期から,養育者との関係を通して,自己が他者の心にどのように映っているかに意識が向くといわれている(鏡映的自己)。デーモンとハート(Damon & Hart, 1988)は,幼児期から青年期後期までの自己理解の認知発達的モデルを提唱し,自己を身体的自己,行動的自己,社会的自己,心理的自己の4つの基本要素に分解し,発達段階に応じて自己理解の中心が移行していくことを示した。青年期には,自己理解が一層多元的になり,自我同一性(アイデンティティ)を形成,確立することが発達課題となる(Erikson, 1963)。自我同一性とは,自分は他人とは異なった独自の存在であるという感覚(独自性),ずっと同一の存在であるという感覚(同一性と連続性),自ら選び取った納得できる自分であること(主体的な選択),社会・他者が認める方向に自分を位置づけることができるということが必要とされ,自分らしさというものが重要な他者,社会からも認められることで形成される。

自我同一性の構成要素として,自己に対する性別の認識(性自認;gender identity)がある。この性自認と生物学的性とが一致せず,日常生活に不適応が生じる状態を性別違和と呼ぶ。性別違和を持つ個人は,性的魅力を感じる対象の性別を表す性的指向(sexual orientation)などに関して,社会からのスティグマによって心理的苦痛,二次障害を抱えることが多いという臨床的問題がある。性的マイノリティ,性のあり方の多様性について,社会全体で理解を深める必要がある。

(神野真麻)

文  献
  • Damon, W. & Hart, D.(1988)Self-understanding in Childhood and Adolescence. Cambridge University Press.
  • Erikson, E. H.(1963)Childhood and Society. New York; W. W. Norton & Company.(仁科弥生訳(1977)幼児期と社会Ⅰ・Ⅱ.みすず書房.)
  • Fenigstein, A., Scheier, M. F., & Buss, A. H.(1975)Public and Private Self-consciousness: Assessment and Theory. Journal of Consulting and Clinical Psychology, 43; 522-527.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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