43:他者との関係

43:他者との関係

人間の心理的発達の主たる要因として,気質環境が挙げられる。気質とは,個人が生まれもった性質のうち,特に情緒面を指すのに対し,環境とは,個人が生まれ育った物理的および心理的状況をいう。両者がどのように人間の心理的発達に影響を及ぼすのかについては,古くから数多くの研究がなされており,気質と環境のどちらかが大きく作用しているという説,あるいは,両者が独立に影響しているという説が提唱されてきた。しかし現在では,両者が緊密に影響し合うことで,人格が形成されていくと考えられており,この考え方を,相互規定的作用モデル(transactional model)と呼ぶ(Sameroff & Chandler, 1975)。

子どもは,養育者を含む環境との相互のやり取りを通して,社会化個性化を果たしていく。堂野(1989)によれば,個性化とは,独自性に富み自律的な人間として自己実現を目指していくことであり,社会化は社会規範を学習し,社会的環境に対して適応を図っていくことをいう。これらの過程は,独立に達成されるというよりも,表裏一体となって成し遂げられる。乳幼児は,養育者との関係を基盤に成長していく。アタッチメントとは,精神科医で精神分析家のボウルビイBowlbyが提唱した概念であり,乳幼児が苦痛や不安など何らかの危機を感じた際に,養育者に近接しようとする本能的な性質を指す(Bowlby, 1969)。乳幼児は,養育者に近づき,接触することで安全を確保する。養育者の不在や不適切な養育(虐待→78)などにより,安定したアタッチメントの形成が阻害されると,情緒あるいは行動の問題が生じるなど,乳幼児の発達やそれ以降の心のあり様に深刻な影響を受ける(アタッチメント障害→80)。

一方,重篤な影響を受けた乳幼児であっても,安心できる関係が持続的に提供されると,心理的な安定を取り戻していく可能性が十分ある。また,現在では,アタッチメントの個人差を類型化して捉えることが多い。乳幼児のアタッチメントを把握する代表的な手法に,ストレンジ・シチュエーション法(strange situation procedure;以下,SSPとする)がある。SSPは,乳幼児をアタッチメント回避型,安定型,不安/アンビバレント型,無秩序/無方向型のいずれかのパターンに分類する。さらに,恐怖を感じる事態において個人が望む場合に養育者に接近可能であるかどうか,そしてその際に養育者が応答してくれるかどうかというアタッチメントに関する主観的確信が個人に表象として定着していると考えられており,これを内的作業モデル(Internal Working Model;IWM)という。IWMは,アタッチメントに関わる情緒,思考,記憶などの心理過程,およびそれにもとづく態度や行動が生じるガイドの役割を果たす。アタッチメント概念は児童期以降も有用であり,個人が成長するにしたがい,アタッチメントを向ける対象は,養育者だけなく,友人やパートナーも含まれるようになる。内的作業モデルは,一定の持続性はもちつつも,そうした他者との交流をもとに変容しうるものである。青年期にさしかかると,あらかじめ与えられた親子関係から離れ,自ら選択した仲間関係友人関係異性関係を通して,アイデンティティの問題に取り組むようになる。

(田附紘平)

文  献
  • Bowlby, J.(1969)Attachment and loss, vol.1 Attachment. New York; Basic Books.
  • 堂野恵子(1989)人間発達とその特徴:発達可能性にみちた存在―人間.In:堂野恵子・加知ひろ子・中川伸子:保育のための個性化と社会化の発達心理学.北大路書房,pp.2-8.
  • Sameroff, A. J., & Chandler, M. J.(1975)Reproductive risk and the continuum of caretaking casually. In: Horowitz, F. D., Hetherington, M. et al. (Eds.): Review of Child Development Research Vol. 4. University of Chicago Press, pp.187-244.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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