13:研究手法

13:研究手法

心理学における実証的研究法はその対象と目的によって,量的研究質的研究とに分けることができる。量的研究とは,尺度得点やある行動の出現回数といった数量的なデータを扱い,分析や結果の記述にあたっても数値を用いる手法である。これに対して質的研究は,数量化しにくい内容的,記述的なデータを扱い,分析や結果も言語的,概念的に記述される。量的研究はあらかじめ設定された仮説を検証する仮説検証型研究に適している。それに対して,質的研究はデータから探索的に仮説を組み立てる仮説生成型研究に適している。このように,両者の方法にはそれぞれ異なる特徴があり,研究目的や対象,その他の状況によって両者の方法を相補的に用いることが望ましい。

一方,心理職が働く現場では何らかの心理的問題を抱えた個人や集団への支援や介入を行う。これらの臨床事例から新たな仮説や理論の構築を試みる研究を,事例研究と呼ぶがこれは質的研究の一つである。事例研究を行う際は,その事例が理論やモデルを提案する上で重要な典型例であるのか,あるいは特殊なケースであるのかといった位置づけを示す必要がある。また,問題形成の経緯や対処,経過を示し,どのような介入が効果をもたらしたのかを明確にする必要がある。加えて,単に経過報告のみでは研究とはいえない。研究として成立するためには,経過の中で立てられた仮説や理論,介入方法が単に一つの事例で有効であったというだけでなく,類似した他の事例を理解する上でも有効であることを示さなければならない(下山,2011)。

心理学は直接観察できない人間の心の働きや仕組みを捉えるために,さまざまな工夫を行ってきた。心理学における主要な研究法として,以下の4つが挙げられる。

  1. 実験法:原因となる独立変数を操作し,結果となる従属変数が変化するかどうかを観察することで因果関係を明らかにする手法である。より良い実験のためには,従属変数に影響を与えるその他の変数(剰余変数)を統制する必要があるが,人間にはその日の体調といった統制困難な剰余変数が多数存在している。心理学の実験では,独立変数の影響がある実験群と影響がない統制群とに参加者をランダムに配分することで剰余変数の影響を均一にする,無作為配分という方法がとられることが多い。
  2. 調査法:参加者の心的特性を測定する質問項目から構成される心理尺度からデータを得る方法が調査法(質問紙法)である。コストがかからず多くの回答が一度に得られることがこの方法のメリットであるが,心理尺度が測定する内容は直接測定できない構成概念であるため,心理尺度の信頼性と妥当性に十分注意する必要がある。
  3. 面接法:研究者と面接参加者との会話を通してデータを収集する方法である。面接法には,あらかじめ質問内容や順序が決められている構造化面接,質問内容は大枠で決まっているが,状況によって質問の順番や仕方などを柔軟に変化させる半構造化面接,対象者に自由に語ってもらう非構造化面接がある。
  4. 観察法:対象者の行動を注意深く観察することで対象者を理解しようとする方法である。観察法には自然な状況下で対象の行動をありのままに観察する自然観察法と,観察場面を操作,設定して対象者の行動や言動を観察する実験観察法とがある(→55)。観察方法には,一定の時間内,あるいはある時点での行動を抽出する時間見本法や,ある特定の場面を選択してそこでの行動を観察する場面見本法,幼稚園の自由時間に生じる子ども同士のいざこざといった特定の事象に焦点を当てる事象見本法などがある(澤田・南,2011)。なお自然観察法の1つの形態として関与(参与)観察(→54)がある。

(二宮有輝)

文  献
  • 澤田英三・南博文(2011)質的調査―観察・面接・フィールドワーク.In:南風原朝和・市川伸一・下山晴彦編:心理学研究法入門―調査・実験から実践まで 第14版.東京大学出版会,pp.19-62.
  • 下山晴彦(2011)臨床における実践研究.In:南風原朝和・市川伸一・下山晴彦編:心理学研究法入門―調査・実験から実践まで 第14版.東京大学出版会,pp.91-218.
  • 高野陽太郎・岡隆(2017)心理学研究法―心を見つめる科学のまなざし〔補訂版〕.有斐閣.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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