32:人格の類型・特性

32:人格の類型・特性

人の人格とは千差万別であり,個人差も多様である。この人格の特徴を理解,記述するための方法は,類型論特性論に大別される。類型論とは,個人の人格を全体的特徴によって,単一の類型に分類する方法であるが,クレッチマーKretschmer(1924)は,体格という観点から人格の特徴を理解し,躁うつ気質,分裂気質,粘着気質に分類した。ユングJung(1921)は,神経症の治療体験をもとに,個人の人格を内向型と外向型に分類した。特性論とは,数多くの特性から人の性格を評価する方法であり,一人の人に特徴的な一貫した行動や言語報告のパターンの単位を操作的に求めて,それによって,人格の構造を捉えようとする立場である。人格に関する研究では,特性論で研究することが主流となり,語彙アプローチと統計的手法を用いて,進められるようになった。語彙アプローチとは,重要な特性は必ず自然言語に符号化されているはずだという基本的語彙仮説に基づいて,日常で人格を表現する語彙を網羅的に収集し,それを分類整理し,因子分析を行うことによって,基本的な特性やその構造を明らかにする方法である。どの文化圏においても,共通した5つの基本次元によって性格を記述できるという理論が導き出され,5因子モデル(ビッグファイブ)が提唱された(Goldberg, L.R. のものが代表的である)。5つの基本次元とは,神経症的傾向(Neuroticism),外向性(Extraversion),経験への開放性(Openness to experience),調和性(Agreeableness),勤勉性(Conscientiousness)である。この見方に沿った人格測定法(NEO-PI-R)が現在標準的な人格尺度として用いられている。その他に,人格を理解し,記述するためのアプローチとして,ナラティヴ・アプローチ(→9),人間性アプローチ(→64)などがある。

臨床現場では,心理的問題への支援を求めるクライエントの特徴を捉え,見立て,適切に支援するために,クライエントを正確にアセスメント(査定)することが求められる。心理検査の中で,人格に関する側面を把握するための検査はパーソナリティ性格検査と呼ばれ,一般的には,質問紙法と投映法(投影法)に大別される。質問紙法の代表的なものとして,エゴグラム(TEG),YG性格検査(矢田部ギルフォード性格検査法),ミネソタ多面人格目録(Minnesota Multiphasic Personality Inventory;MMPI),抑うつ尺度,性格の5因子モデルに基づくNEO-PI-R,5因子性格検査(Five-Factor Personality Questionnaire;FFPQ)などがある。

投映法(投影法)とは,曖昧でいかようにもとれる刺激(教示)を提示してそれに対する反応を見る検査である(→57)。代表的なものとして,ロールシャッハ・テストやTAT(Thematic Apperception Test;主題統覚検査),描画検査などがある。

人格は,人間が恒常的に有している知覚や思考,行動の個々のパターンであるが,その特徴が著しく柔軟性を欠いて社会生活に不適応が生じる状態を,パーソナリティ障害と呼ぶ。DSM-5によると,パーソナリティ障害とは,「その人の属する文化から期待されるものから著しく偏り,広範でかつ柔軟性がなく,苦痛や障害を引き起こす内的体験および行動の持続的形式」と定義される。DSM(→50100)では,パーソナリティ障害を記述的類似性に基づいてA~Cの3群に分類した。A群は,妄想性,スキゾイド,統合失調型パーソナリティ障害を含み,B群は,反社会性,境界性,演技性,自己愛性人格障害を含むことが多い。C群は,回避性,依存性,強迫性パーソナリティ障害を含む。

(神野真麻)

文  献
  • Jung, C. G.(1921,高橋義孝訳)心理学的類型.In:ユング著作集1─人間のタイプ.人文書院.
  • Kretschmer, E.(1924)Korperbau und Charakter: Untersuchungen zum Konstitutions Problem und zur Lehre von den Temperamenten. Springer.(相場均訳(1960)体格と性格.光文堂.)

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

関連用語

その他の用語