クライエントへの適切な支援や介入を考える際には,多元的な視点を持って情報収集を行い,クライエントの特性や抱えている問題の全体像を把握し,総合的に理解する必要がある。その理解のための枠組みの一つが,1950年内科医のエンゲルEngel, G. L.によって提唱された生物心理社会(Bio-Psycho-Social)モデルである。生物心理社会モデルは,生物学的要因(脳・身体・遺伝など),心理学的要因(認知・行動・ストレスなど),社会学的要因(文化・環境・ソーシャルサポートなど)の3つの側面からクライエントを理解しようとする。これによって,心理職だけではなく,医師やソーシャルワーカーなど多職種連携を可能にする。
心理師として求められるのは実践家としての側面だけではない。1949年にアメリカで開催されたボールダー会議において,科学者-実践家モデルが提唱された。科学者-実践家モデルは,心理の専門家として科学者と実践家の両側面を併せ持つべきであるとする考え方である。日本でも,エビデンスを重視する風潮と相まって,科学的思考に基づく臨床実践が求められるようになった。そのため,支援や介入の効果を検証するための科学的手法に関しての理解や習熟も不可欠である。ただし,科学的なエビデンスだけにとらわれて,クライエントの気持ちや価値観などを無視してしまってはならない。心理職として,支援や介入に効果があるのかを検証することのできる研究者としての能力と,クライエントに寄り添いながら適切な支援や介入を選択・実施することのできる実践家としての能力をバランスよく身につけ,両者を上手く活用していくことが必要である。
(織田万美子)
文 献
- 無藤隆・森敏昭・遠藤由美ほか(2011)心理学.有斐閣.
- 下山晴彦(2009)よくわかる臨床心理学.ミネルヴァ書房.