14:統計手法

14:統計手法

量的研究においては,検証したい作業仮説にそった研究計画を立て,研究対象とする集団からランダムに標本を抽出し,質問紙に対する回答などのデータを収集する。データを収集する前に,作業仮説をどのような統計的手法によって検証するかを定めておくことが,科学的な仮説検証のためには欠かせない。

標本が複数個の変数によって特徴づけられる場合,それらの変数間の相互関連を分析する統計的手法を総称して「多変量解析」とよぶ(柳井,1986)。たとえば,ストレス指標の分散が,うつ傾向得点の分散と,内向性得点の分散によって説明することができれば,これらの変数間の関係性を統計的に記述することが可能となる。研究者が着目する,外的基準の分散を説明するための変数(うつ傾向得点,内向性得点)を「独立変数」や「説明変数」とよび,外的基準(ストレス指標)を「従属変数」や「基準変数」とよぶ。従属変数の分散を,複数の独立変数の分散で説明するための分析を「重回帰分析」とよぶ。重回帰分析では,従属変数について,いくつかのカテゴリに分かれていることを表す「離散変数」ではなく,連続的に値が変化する「連続変数」であることを仮定する。

「男性/女性」「実験群/対照群」のように,複数個の質的に異なる属性がクロスした集団間で,ある外的基準の変数に有意な差がみられるかを検討することも,多変量解析によって行うことができる。調査参加者の属性(独立変数)がカテゴリに分かれており,カテゴリ間で従属変数の平均値差を検討する分析手法が「分散分析」である。分散分析は,独立変数がすべて離散変数である場合の重回帰分析である。

調査対象が学校や病院などで,多施設にわたる場合,施設独自の要因で従属変数の分散が説明できる場合がある。たとえば,調査対象の中の特定の学校に属する生徒だけが,他の生徒に比べて自尊感情得点が低いといった場合である。このような調査計画では,生徒が第一階層,学校が第二階層という形で,階層化されたサンプル抽出が行われる。この点を考慮に入れた分析が「マルチレベル分析」である。これにより,従属変数の変動要因をより精緻に説明することができる。

これから行おうとする研究について,過去に複数の研究事例がある場合,それらの研究事例群でどれほどの大きさのサンプルが用いられ,差の絶対的な量,すなわち「効果量」がみられるかを俯瞰することができる。このような統計的アプローチにより,同じ研究テーマを扱った研究群を統合して解釈しようとする分析が「メタ分析」である。

ここまで,作業仮説で独立変数が仮定される場合の多変量解析について述べたが,仮定されない場合も研究対象となりうる。複数の変数の分散が,観測されていない少数の説明変数の分散によって統一的に説明されるという分析モデルを「因子分析」とよぶ。因子分析では,説明変数が観測されておらず,潜在的に仮定される「潜在変数」であると考える。たとえば高校の教科の成績を分析する場合,これらの成績がいくつかの潜在変数によって説明される,といった分析モデルを考え,潜在変数の個数を変えながら探索的に因子構造を検討する。また,潜在変数間の関係性について,説明関係をモデル化して検討するための分析手法として,「構造方程式モデリング」がある。

尺度の開発や使用に関わる理論体系を「テスト理論」とよぶ。質問紙調査や心理検査の分析は,テスト理論に基づき,測定の確からしさを検討することが求められる。特に測定の正確さを表す「信頼性」と,測定したい概念が正しく測れているかを表す「妥当性」の検討が必要である。

(光永悠彦)

文  献
  • 柳井晴夫(1986)多変量解析の基本概念.In:柳井晴夫・高木廣文編:多変量解析ハンドブック.現代数学社,pp.1-17.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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