21:記憶

21:記憶

記憶のプロセスは,情報を取り入れる記銘,情報を蓄えておく保持,必要に応じて情報を取り出す想起の3段階で捉えることができる。なお,より情報処理的な用語に置き換えると,各々,符号化,貯蔵,検索となる。記憶に関する代表的なモデルとして,二重貯蔵モデルがある(Atkinson et al.,1968)。このモデルでは,外界からの情報がモダリティごとに取り入れられる感覚登録器,感覚登録器内の情報のうち注意が向けられたものが転送される短期貯蔵庫,短期貯蔵庫内の情報のうちリハーサル(復唱)を多くなされたものが転送される長期貯蔵庫が仮定されている。このモデルの重要な点は,短期貯蔵庫,長期貯蔵庫という性質の異なる2つの貯蔵庫を仮定しているという点である。それぞれの貯蔵庫に蓄えられた情報は,短期記憶長期記憶と呼ばれる。まず,両者は保持時間に違いがある。短期貯蔵庫では,リハーサルによって情報が保持されるが,それをやめてしまうと15~30秒で消失してしまうのに対して,長期貯蔵庫ではリハーサルをしなくとも永続的に情報を貯蔵することが可能である。また,短期貯蔵庫には容量に限界があり,7±2チャンク程度であることが知られているのに対して,長期貯蔵庫には容量限界はないという違いがある。ワーキングメモリ(作業記憶)モデル(Baddeley, 1986)は,短期貯蔵庫と長期貯蔵庫を仮定する二重貯蔵モデルの枠組みを継承しつつ,特に短期貯蔵庫について精緻化したものと捉えることができる。具体的には,短期貯蔵庫では単に情報を貯蔵するだけではなく,さまざまな認知処理が行われると仮定している。

(清河幸子

文  献
  • Atkinson, R. C. & Shiffrin, R. M.(1968)Human memory. In: Spence, K. W. & Spence, J. T. (Eds.): The Psychology of Learning and Motivation: Advances in Research and Theory, Vol. 2. Academic Press.
  • Baddeley, A. D.(1986)Working Memory. Oxford University Press.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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