24:学習

24:学習

自身にとって有害な嫌悪刺激が提示されている状況から逃れる反応を獲得することを逃避学習,嫌悪刺激の出現を予告する刺激のもとで,嫌悪刺激の出現を妨げる反応を獲得することを回避学習という。例えば,2つの区画が柵で区切られており,今いる区画では電気ショックを受けるものの,電気ショックに先行して提示されるブザーが鳴っている間に柵を越えて隣の区画に移れば電気ショックを避けられる条件下で柵を越えるという行動を獲得することなどが回避学習の例として挙げられる。こうしたとき,一度学習した行動は類似した刺激が提示されたときにも生じると考えられる。このように,ある刺激に結びついた反応が,別の類似した刺激によっても生じることは般化と呼ばれる。例えば,ある波長の音を条件刺激として古典的条件づけを行うと,その音のみでなくその音に類似した波長の音に対しても条件反射が生じる。逆に,異なる特徴をもつ複数の刺激のそれぞれに別の反応が対応して結びつくことを弁別という。パブロフPavlov, I.P.によるイヌを対象にした実験では,弁別すべき2つの刺激の類似性が非常に高い状況で条件づけを反復的にくり返した。その結果,学習成績が低下して弁別が示されなくなるとともに,それまでおとなしかったイヌが台の上で鳴き声をあげて暴れたり,装置の一部をかみ切ったりするなどの行動がみられた。このように,弁別の困難な条件づけを続けると,実験神経症と呼ばれる行動の混乱が生じる。また,技能学習において,ある学習の効果が類似した学習場面に波及することは転移という。例として,スケートのできる人はスキーの上達も早いと考えられる。

同一刺激の反復的な提示に伴い,当初みられた生得的な反応が減少することをじゅんという。近所の工事の騒音に当初は毎回驚いていたものの,次第に慣れて気にならなくなることは馴化の一例である。馴化が生じた後に別の刺激を提示すると,馴化された反応が回復する馴化が生じる。

学習の成立過程を考えるうえで,どのような刺激と行動との関係は学習されやすく,逆にどのような関係は学習されにくいのかという点には動物の種差がみられる。このように,動物の生物学的な特質に依存して学習が制約を受けることは,学習の生物学的制約と呼ばれる。また,学習の成立のためには,必ずしも条件づけられている生体自身の反応が直接強化される必要はない。トールマンTolman, E. C.らの実験は,ネズミが迷路を走る際に,報酬のない期間においても認知地図の学習が潜在的に進行すること(潜在学習)を示した。また,バンデューラBandura, A.の社会的学習に関する理論では,他者(モデル)の行動を観察することで学習が生じる観察学習(モデリング)が提唱された。バンデューラらのボボ人形を用いた有名な実験では,攻撃行動を対象にして観察学習の存在を示した。その後,バンデューラの理論は生体の認知的な機能により焦点を当て,特にある行動について「自分は遂行できる」という認知を指す概念である自己効力感の重要性を強調した(Bandura, 1977)。ケーラーKöhler, W.は,チンパンジーに「2本の短い棒をつなぎ合わせて長い棒を製作し,1本の棒では届かない距離にあるえさを引き寄せる」という問題解決を行わせた。チンパンジーは,はじめに既存の行動レパートリーの中からいろいろな行動を次々に試みる試行錯誤をしたあと,突然課題を解決した。このように,問題解決場面においてその状況を新たな見方によって再構成することで,新しい解決の糸口が見つかることを洞察という。

(解良優基

文  献
  • Bandura, A.(1977)Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84; 191-215.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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