45:生涯発達の遺伝的基盤

45:生涯発達の遺伝的基盤

発達は乳幼児期の要因にのみ左右されるのではなく,いずれの時点においても変化の可能性があるとする生涯発達の考え方がある。これは,胎児期から老年期,死に至るまで,獲得と喪失の両面から発達を捉えることを目指すものである。さらに近年,子どもは大人の準備期間ではなく,いずれの時点においても完成している存在で,その姿は各時期に適応するように進化の中で選択されてきたとする進化発達心理学の考え方が提唱されている。これらの考え方は,発達は加齢とともに単線的に進むものではなく,その時期ごとにさまざまな速度,道筋で変化を遂げていることを示している。

発達の考え方を広げたものとしてもう一つあげられるのが行動遺伝学である。主に双生児法を用いて,行動や心的活動の違いを遺伝と環境の両面から解明するものである。行動遺伝学では,遺伝と環境の相互作用を,遺伝・環境それぞれの影響がどのような場合に強まるのか,または弱まるのか,という視点で捉えている。その発展として,たとえ遺伝子型が同じであっても後天的に発現の仕方が異なることで体格や心的活動などに差異がうまれるとするエピジェネティクスの分野が注目を集めている。遺伝の発現を制御するプロセスは,環境の影響に対する適応的な反応として作用し次世代に伝達する機能を持つことがある(安藤,2017)。これら行動遺伝学の発展は,生涯発達や進化発達心理学の考え方と同様に発達が単線的でないことを示している。さらに,胎児期から生後早期の栄養環境がエピジェネティックな変化によって青年期以降における疾病のリスク要因になることがわかっている(DOHaD仮説)。今後,長期縦断的な視点によって発達の複雑なメカニズムが解明されることが求められていく。

(若林紀乃)

文  献
  • 安藤寿康(2017)「心は遺伝する」とどうして言えるのか─ふたご研究のロジックとその先へ.創元社.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

関連用語

その他の用語