29:感情理論

29:感情理論

19世紀後半,フロイトFreud, S.は精神力動論(→62)を築き上げ,感情間の葛藤とその結果としての表現型(症状)を描き出した。精神力動理論では,人は願望があっても,その表現には不安があって,そこに葛藤が生じ,仕方なく別の在り方で代理満足を得ていると考える(→62)。また,このプロセスが無意識下で起こるとするのも精神力動論の特徴と言える。1960年代になると認知心理学が隆盛し(認知革命),感情と認知の関連についても検討された。その流れで提唱されたのが認知評価理論である。認知評価理論では,個人の刺激に対する評価・意味づけ(認知評価)によって接近か回避へと動機づけられ,そこで体験されるのが感情とする。20世紀後半には,幸福,悲しみ,怒り,恐れといった感情が固有の反応として位置づけ,いくつかの理論が導かれた。その一つが基本感情論であり,進化の過程で発達してきた基本感情にはそれぞれ固有の脳神経回路が存在すると指摘する。もう一つは次元論で,たとえばラッセルRussellら(1999)は,快-不快次元と覚醒-睡眠次元の2つの次元であらゆる感情は説明できるとした。

これまでの理論とは異なり,感情を表す言葉の数や意味の文化差から考案された理論が構成主義理論である。構成主義理論では,感情は社会や文化によって規定されると考える。これは基本感情論よりも,認知評価理論に近いが,生物学的要素を感情に不可欠なものとは考えない点で,他の理論とは一線を画す。

(和田浩平

文  献
  • Russell, J. A., & Feldman-Barrett, L.(1999)Core Affect, prototypical emotional episodes, and other things called emotion: Dissecting the elephant. Journal of Personality and Social Psycholoty, 76; 805-819.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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