31:人格の概念・形成過程

31:人格の概念・形成過程

パーソナリティ人格性格と訳される)とは,人間の個性の中核をなすものであり,それぞれの個人を特徴づけている,時間的・空間的一貫性のある行動様式である。時間的一貫性とは,多少の波はあっても時間の経過によって変化することがあまりないことを意味し,空間的一貫性とは,ある場面や状況で変化することは少なく,かなり共通した特徴が認められることを意味する。パーソナリティ(personality)とは,ラテン語の「仮面」(ペルソナ;persona)という言葉を語源に持つことからわかるように,目に見える行動や表面的な性質を思わせるものであり,環境との関係によって形成され変容するもの,社会的役割の意味を含むものである。人格に類似した言葉としての気質(temperament)とは,個人の示す情動反応の特徴を意味し,生得的・遺伝的な影響の大きいものが想定されている。気質は,人格の基盤をなす個人の特性と考えられている。

個々の人格を記述するとき,社交的,内向的,保守的,快活など,数多くの観点(特性)から個人の人格を評価し,構造を捉えようとする立場を特性論(→32)という。特性論では,数多くの人の具体的な行動や精神活動の記述を集めて,相互に関係しあって人格を構成している因子を抽出する方法(因子分析法)が導入され,大きく発展した。他者の行動を観察することによって人が学習をすることを導き出した社会的認知理論(社会的学習理論)の立場をとる,ミシェルMischel(1968)は,個人の思考や行動は,一貫したものではなく,状況に応じて変化することを主張し,思考や行動は一貫して変わらないものと主張する立場との間の論争が起こった。これは,人の行動の決定因として,内的要因と外的要因のいずれを重視するかという論争であり,一貫性論争(人間-状況論争)と呼ばれる。実証的研究に基づいて,1990年代までに,人格に関連した思考や行動は一貫したものではないという結論で決着したが,この論争以後,行動の説明にとって,人の内部にあるもの(特性)よりも,状況の方が重要であると考える理論,すなわち状況論という考えも起こってきた。そして,このような「人か状況か」という論争の帰結として,個人の行動の説明には,人格と状況の両方の要因を考慮する必要があるというアプローチで,人と状況が互いに影響しあう,より力動的な能動的な相互作用のプロセスに注目する,相互作用論(説)という理論的立場が導かれるようになり,多くの研究に影響を与えた。

人格の形成過程において,個人が生得的に有している遺伝要因と発達過程におけるさまざまな環境要因がそれぞれどの程度の影響を与えているかという点について,心理学では双生児研究によって古くから研究されてきたが,近年の研究では遺伝要因の影響が強いことが示されている。環境要因としては,発達過程におけるアタッチメントを含む養育や教育の質,さまざまなライフイベントの経験等が影響しているといえる。人格の全体性を強調するシュテルンStern, W.は,人間の人格形成や発達には,環境要因と遺伝要因の双方が相互作用しながら影響しているという輻輳説を提唱した。人格の時間的連続性と変化に関しては,文化によって異なるところもあるが,加齢に伴い,誠実性,協調性,情動的安定性という人格特性は増加傾向になり,外向性については,減少傾向が認められる。安定性に関しては,発達早期ほど,人格の可変性が相対的に高く認められるのに対し,加齢とともに徐々に変動は生じにくくなり,人格の固定化が進むようになる。

(神野真麻

文  献
  • Mischel, W.(1968)Personality and Assessment. New York; John Wiley & Sons.(詫間武俊監訳(1992)パーソナリティの理論―状況主義的アプローチ.誠信書房.)

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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