11:心の仕組みと働き

11:心の仕組みと働き

科学としての心理学が発展していく中で,個人差を科学的な方法で検証する個人差研究が誕生した。ビネーBinet, A.は精神発達の遅れのある子どもの判定を目的に知能検査を作成し,子どもの知的発達を測定することを可能とした。その後も,ウェクスラーWechsler, D.らにより多様な知能検査が開発され,現在も広く使用されている。また,知的側面だけではなく,情意的側面の特性を示すパーソナリティも人それぞれであることが知られている。クレッチマーKretschmer, E.やユングJung, C.G.は類型論によって,キャッテルCattell, R.B.やアイゼンクEysenck, H.J.は特性論によって個人のパーソナリティを理解しようと試みてきた。知能やパーソナリティの個人差は,遺伝的要因によってのみ規定されるようなものではない。遺伝的要因に環境的要因が加わり,両者の相互作用の中で築き上げられる可変的なものであると考えられるため,多元的な視点を持って理解する必要があるだろう。

人間は社会の中に生まれ,その社会の中で成長する。人間の行動様式には個人差が見られるが,周りの環境や他者からの影響を受けて社会行動が発達していく。親と子の二者関係から始まった対人関係は徐々に広がっていき,いずれは集団の中で求められる役割に応じて行動と取ることができるようになっていく。また,その中で自我が芽生え,周囲の環境との相互作用の中で自己概念や,スキーマや帰属過程など社会的な認知のスタイルが形成されていく。以上のように,人は周りの環境や他者からさまざまな影響を受けている。その影響は社会的促進という形でポジティブに働く場合もあれば,社会的手抜き・社会的抑制という形でネガティブに働く場合も考えられる。

(織田万美子)

文  献
  • 無藤隆・森敏昭・遠藤由美ほか(2011)心理学.有斐閣.
  • 鹿取廣人・杉本敏夫・鳥居修晃(2009)心理学[第3版].東京大学出版.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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