36:高次脳機能障害と高次脳機能障害者への支援

36:高次脳機能障害と高次脳機能障害者への支援

学術用語としての高次脳機能障害とは,一般に大脳の器質的病因により,失語,失行,失認など比較的局在の明確な大脳の巣症状,注意障害,記憶障害などの欠落症状,判断・問題解決能力の障害,行動異常などを呈する状態像とされている。一方,行政用語としての高次脳機能障害は,2001年より開始された厚生労働省による「高次脳機能障害支援モデル事業」において定義された診断基準であり,「脳の器質的病変の原因となる事故による受傷や疾病の発症の事実が確認されている」および「現在,日常生活または生活に制約があり,その主たる原因が記憶障害,注意障害,遂行機能障害,社会的行動障害などの認知障害である」(ただし,先天性疾患,周産期の脳損傷,発達障害,および認知症などの進行性疾患を原因とする場合は除外する)とされている。

高次脳機能障害の原因:巣症状である失語,失行,失認などは,成人では脳梗塞,脳内出血,くも膜下出血などの脳血管障害によるものが多く,小児では頭部外傷によるものが多く,その他,脳腫瘍,脳炎,てんかんなど脳に損傷をきたす疾患はいずれもが原因となり得る。また,失語では,左前頭葉ブローカ野損傷(運動性失語),左側頭葉ウェルニッケ野損傷(感覚失語),縁上回および弓状束損傷(伝導失語),左前頭葉背外側および前頭葉内側補足運動野損傷(超皮質性運動失語),左側頭葉から後頭葉損傷や,左前頭葉損傷(超皮質性感覚失語)などが責任病巣となることが多く(失語については言語障害→27),失行は,中心領域損傷(肢節運動失行),頭頂葉損傷(観念運動性失行),頭頂後頭葉移行部損傷(観念性失行),その他,脳梁損傷(拮抗失行),対側の補足運動野・前部帯状回,および脳梁損傷(道具の強迫的使用現象)などが責任病巣となることが多く,失認では,後頭側頭葉損傷(物体失認),紡錘状回損傷(相貌失認),両側または右側頭後頭葉内側部損傷(街並失認),左後頭葉損傷(色彩失認)などが責任病巣となることが多い。さらに,記憶障害では,ビタミンB1欠乏によるウェルニッケ脳症や視床損傷など(間脳性健忘),アルツハイマー病,単純ヘルペス脳炎後遺症など(側頭葉性健忘),前交通動脈破裂によるクモ膜下出血後遺症など(前頭基底部健忘)が責任病巣となることが多く,注意障害では,注意は通常,全般性と方向性に大別され,前者は,さらに焦点性,持続性,選択性,転換性,分配性の要素に分けられ,脳血管障害や脳挫傷(要素が重複した注意障害),頭頂葉損傷(選択性または転換性注意障害),前頭葉損傷(転換性または分配性注意障害),右頭頂葉損傷(方向性注意障害:左半側空間無視)が責任病巣となることが多く,遂行機能障害(①意思あるいは目標の設定,②計画の立案,③目的ある行動もしくは計画の実行,④効果的に行動するなどの要素を含む機能の障害)や社会的行動障害(依存性・退行,感情・欲求コントロールの低下,対人技能の拙劣,固執性,意欲・発動性の低下,反社会的行動などが主症状)では,前頭葉損傷が責任病巣となることが多い。

高次脳機能障害者に対する支援:標準的リハビリテーション・プログラムは,発症・受傷からの相対的な期間と目標によって,①医学的リハビリテーション(認知リハビリテーション:機能的アプローチ・代償的アプローチ・環境調整的アプローチ,心理カウンセリング:心理教育・心理療法,薬物療法,外科的治療など),②生活訓練(障害受容と代償手段の獲得を課題とした直接的な訓練,環境調整など),③就労移行支援(職場準備,就労マッチング,職場定着支援など)を段階的に行う。

(小海宏之)

文  献
  • 小海宏之(2015)神経心理学的アセスメント・ハンドブック.金剛出版.
  • 緑川晶・山口加代子・三村將編(2018)公認心理師カリキュラム準拠[神経・生理心理学]臨床神経心理学.医歯薬出版.
  • 山鳥重(1985)神経心理学入門.医学書院.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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