75:公認心理師の保健活動

75:公認心理師の保健活動

地域保健活動:地域における保健活動は地域保健法により都道府県・政令指定都市・中核市・その他政令で定める市・特別区に設置されている保健所と市町村が設置している市町村保健センターが担っている。保健所・地域保健センター(以下,保健所等)の業務は広範であるが,心理支援と関連が深い事項として乳幼児健診や療育,発達相談,育児不安への対応などをはじめとする母子保健の領域や,さらに精神疾患や依存症(→97)DVや自殺対策などの精神保健領域,認知症高齢者(→84)や介護者への支援などの高齢者保健の領域などがあげられる。

発達相談:発達相談は,乳幼児の身体発育,運動発達および精神発達などについての相談であり,保健師,医師,心理師などがそれぞれの専門分野に応じて相談に当たっているが,共通した枠組みはなく,それぞれの地域や実施機関によって多様な試みがなされている。

多くの市町村では,母子保健法(→106)に定める乳幼児に対する健康診査,いわゆる乳幼児健診時の個別・集団での保健指導や事後指導,療育・事後教室などでのフォローアップ時などに発達相談が実施されている。また,保護者の子どもの発達への心配に対応するための発達相談窓口を別に設けている自治体も多い。

乳幼児期の発達相談の目的は子どもの発達アセスメントと保護者への子育て支援の両面にある。子どもの発達アセスメントは,障害などで支援が必要な子どもを早期に発見して療育や医療機関などの支援に早期につなげていくことによって,乳幼児の適切な精神発達の促進や社会適応に利することを目指すものである。また,保護者への子育て支援においては,子どもの発達や障害についての不安に配慮しながら適切な発達や個性に対する理解を促すことや家族関係の支援,子育て不安への対応,虐待防止・対応が含まれている。2005年の発達障害者支援法の制定後,発達相談の役割や範囲は広がった。保育園や幼稚園,学校といった生活・教育の場における発達評価や子どもの個性に応じた支援が求められるようになったことから,それらの場への訪問による相談(巡回発達相談)を実施する地域も増加している。その他,発達相談を行う機関として,子育て支援センター(子ども家庭支援センター)や児童相談所,発達障害者支援センターなどがある(発達アセスメント→59,虐待→78)。

自殺対策:平成29年7月に改定された自殺総合対策大綱では「誰も自殺に追い込まれることのない社会の実現を目指して」地域での実践的な取り組みをさらに推進することを大きく掲げている。その中で自殺対策としては,「社会における『生きることの阻害要因(自殺のリスク要因)』を減らし,『生きることの促進要因(自殺に対する保護要因)』を増やすことを通じて,社会全体の自殺リスクを低下させる方向を示している。そのためにうつ・統合失調症などの精神疾患,アルコールや薬物・ギャンブル等への依存症のハイリスク者への対策だけでなく,ひきこもり,児童虐待,性犯罪・性暴力の被害者,生活困窮者,ひとり親家庭,性的マイノリティに対する支援や妊産婦への支援の充実を目指すこと,多様な相談手段を確保すると共に,社会の中での居場所作りを行うこと,などが提言されている。自殺対策は広く心の健康づくりのための体制整備と関連しながら,学校におけるいじめ予防や児童生徒に対する援助希求行動やストレス対処に関する教育の推進,職場復帰支援なども含めた職場のメンタルヘルス体制の推進が求められている。その他,自殺企図者やその周囲,遺族や支援者への心理支援についても触れられている。

自殺の多くは多様かつ複合的な原因および背景を有しており,さまざまな要因が連鎖する中で起きているが,自殺企図者に対する調査(Bertolote et al, 2002)からは,うつ病をはじめとする気分障害が自殺の要因として特に重要であることが明らかになっており,厚生労働省における自殺対策においても,うつ病対策がその中核となっている。一方でうつ病の医療機関への受診率の低さが示されていることから,地域保健における対応が重視されている。

ひきこもりひきこもりは単一の疾患や障害の概念ではなく,さまざまな要因が複雑に絡み合って形成された状態像を示している。厚生労働省はひきこもりの定義を「様々な要因の結果として,社会的参加(義務教育を含む就学,非常勤職を含む就労,家庭外での交遊など)を回避し,原則的には6カ月以上にわたって概ね家庭にとどまり続けている状態(他者と関わらない形での外出をしている場合も含む)」としている。狭義の定義では精神疾患がひきこもりの第1の原因ではないとされているが,厚生労働省による実態調査(近藤ら,2010)によるとその約33%に統合失調症や気分障害等の精神疾患の診断が可能であったことから,確定前の精神疾患が含まれている可能性が示されている。ひきこもり状態から二次的に精神疾患が発症した場合も含め,その状態像から医療機関での適切な治療につながらないことが長期化の要因のひとつと考えられている。さらに,知的障害や発達障害,パーソナリティ障害の診断が可能であった割合も65%以上あり,ひきこもりへの支援に際してこれらの背景要因を充分に配慮したアセスメントが求められる。ひきこもりに関する専門的な相談は主に保健所や精神福祉保健センターが担っているが,2009(平成21)年度からひきこもりに特化した第一次相談窓口としての機能を有するひきこもり地域支援センターの設置を各都道府県および政令指定都市にて行い,ひきこもり支援コーディネーターが家族や本人への支援や相談を来談や訪問によって実施している。

(堀美和子

文  献
  • Bertolote, J. M. & Fleischmann, A.(2002)Suicide and psychiatric diagnosis: A worldwide perspective. World Psychiatry, 1; 181-185.
  • 近藤直司・清田吉和・北端裕二ほか(2010)思春期ひきこもりにおける精神医学的障害の実態把握に関する研究.斎藤万比古(主任研究者)思春期のひきこもりをもたらす精神疾患の実態把握と精神医学的治療・援助システムの構築に関する研究 平成21年度総括・分担研究報告書(厚生労働科学研究 こころの健康科学研究事業).

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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