87:スクールカウンセリング

87:スクールカウンセリング

スクールカウンセラーとは,心理の専門家として児童生徒へのカウンセリング,困難・ストレスへの対処方法に資する教育プログラムの実施を行うとともに,児童生徒への対応について教職員,保護者への専門的な助言や援助,教育(教員)のカウンセリング能力等の向上を図る研修を行っている専門職である(文部科学省,2016)。

スクールカウンセラー制度としては,1995年度に「スクールカウンセラー活用調査研究委託事業」が文部省(当時)にて実施されたのが始まりである。2001年度には,「スクールカウンセラー活用事業補助」に移行し,予算措置についても全額国庫負担から地方自治体への移行が進められ,中学校全校配置を目標に進められた。現在は,小学校や高校,特別支援学校等においても配置され,広がりをみせている。

教育場面における心理支援としては,学校心理学の枠組みが参考となる。学校心理学とは,学校教育において一人ひとりの子どもが学習面,心理・社会面,進路面,健康面などにおける課題の取り組みの過程で出会う問題状況の解決を援助し,子どもの成長を促進する「心理教育的援助サービス」の理論と実践を支える学問体系である(日本学校心理学会,2016)。なお支援モデルとして,3段階の心理教育的援助サービスがある。「すべての子ども」に共通する援助ニーズに応じる一次的援助サービス(開発的援助)が基盤となり,学校生活で苦戦し始めている(登校しぶりなど)もしくは苦戦する可能性が高い(転校生など)「一部の子ども」の援助ニーズに応じる二次的援助サービス,不登校やいじめ,非行など「特定の子ども」の特別な援助ニーズに応える三次的援助サービスがある。以下,スクールカウンセラーが行う心理教育的援助サービスについてまとめた。

アセスメント:学校心理学に基づくアセスメントとは,「援助の対象となる子供が課題に取り組むうえで出会う問題や危機の状況についての情報の収集と分析を通して,心理教育的援助サービスの方針や計画を立てるための資料を提供するプロセス」(石隈,1999)とされている。スクールカウンセラーは,児童生徒とのカウンセリング内容,教師や保護者からの聞き取った内容,教室における児童生徒の行動観察や児童生徒が作成した課題作品や作文,心理検査結果等の情報を用いて,児童生徒の学習面,心理・社会面,進路面,健康面等多面的にアセスメントを行う。また,スクールカウンセラーがアセスメントする際には,子どもと環境の相互作用に焦点を当てる生態学的アセスメントの視点を基盤とし,子どもの問題状況について個人的要因と環境要因の両面とそれらの相互作用から理解する必要がある。

コンサルテーション学校関係者へのコンサルテーションとは,「異なった専門性や役割をもつ者同士が子どもの問題状況について検討し今後の援助の在り方について話し合うプロセス(作成会議)」である(石隈,1999)。また,自らの専門性に基づき他の専門家の援助対象へのかかわりを援助する者をコンサルタント,そして援助を受ける者をコンサルティと呼ばれる。コンサルテーションの目的は,子どものへの関わりにおける問題解決とコンサルティの援助能力の向上の2つの側面をもつ。なお,コンサルタントとコンサルティの関係は一方向だけでなく相互にもなり得るとした相互コンサルテーションという概念もある。相互コンサルテーションでは,援助チームの話し合いにおいて,お互いコンサルタントとコンサルティとなり,だれがその援助案を実行することが適切か役割分担をして子どもを援助し,援助の結果を評価し,次回の援助へとつなげていく。

コーディネーションとは「学校内外の援助資源を調整しながらチームを形成し,個別の援助チームおよびシステムレベルで,援助活動を調整するプロセス」(日本学校心理学会,2016)である。コーディネーションは,心理教育的援助サービスの3層のシステムとして整理される。まず,「個別の援助チーム」は,苦戦する子どもの保護者,担任,コーディネーター,スクールカウンセラー等から構成され,子どもの問題状況の解決を目指す援助チームである。次に,「コーディネーション委員会」は,困難な事例に関する学校レベルでの援助サービスのコーディネーションを行う委員会であり,教育相談や特別支援教育のコーディネーター,養護教諭,管理職,スクールカウンセラーから構成される。最後に,マネジメント委員会は,学校の経営に関する意思決定を行う委員会であり,管理職(校長,副校長,教頭),主任等から構成される。スクールカウンセラーは,個別の援助チームだけでなく,コーディネーション委員会やマネジメント委員会に参加して,チームとしての学校に貢献することが求められる。

チーム学校:2015年には,文部科学省の中央教育審議会にて「チームとしての学校(以下,チーム学校と略記)の在り方と今後の改善方策について(答申)」が提出された。チーム学校を実現するうえで,3つの視点に沿って施策が示されている。1つ目は「専門性に基づくチーム体制の構築」であり,多様な教育活動をチームで行うことを目指した教職員の指導体制の充実化およびスクールカウンセラーやソーシャルワーカー等が「学校の職員として,職務内容等を明確化し,質の確保と配置の充実」が進められる。2つ目の「学校のマネジメント機能の強化」では,優秀な管理職を確保するための取り組みや主幹教諭の配置の促進や事務機能の強化などを通し,校長のマネジメント体制を支える仕組みの必要性が示されている。3つ目の「教員一人一人が力を発揮できる環境の整備」では,教職員がそれぞれの力を発揮し伸ばしていくことを目指し,人材育成の充実や業務改善の取り組みを進めるとされている。スクールカウンセラーはチーム学校の一員として,生徒,教職員,保護者等を心理学的側面より支援するとともに管理職には適切な報告を行う必要がある。

学生相談:スクールカウンセラーと職域が似ているものに学生相談がある。これは,「【前提】大学という教育機関であり,かつ1つのコミュニティでもあるという場の特徴と各大学ごとの個別性を念頭におき,【目的】学生個人個人に焦点を当てて,学内外への適応や心理的成長を促し,大学の教育目標にかなう形で,【機能】クリニック的な心理臨床,厚生補導的な個別性に応じた働きかけ,そして教育・発達援助的な働きかけを,対象者と環境を的確にアセスメントしたうえで行うものである」(日本学生相談学会50周年記念誌編集委員会,2010)とされている。具体的には,学生へのカウンセリングを行うことを第一とするが,予防活動や予防教育,コンサルテーションなどの心理支援行うことにより,ファカルティ・デベロップメント(FD),スタッフ・デベロップメント(SD)等のプログラム開発や研究などにも関与することとなる。なお,FDとは教員が授業内容・方法を改善し向上させるための組織的な取り組みの総称のことである。一方SDとは,事務職員や技術職員など職員を対象とした,管理運営や教育・研究支援までを含めた資質向上のための組織的な取り組みを指す。

(鈴木美樹江)

文  献
  • 石隈利紀(1999)学校心理学─教師・スクールカウンセラー・保護者のチームによる心理教育的援助サービス.誠信書房.
  • 日本学校心理学会(2016)学校心理学ハンドブック 第2版─「チーム」学校の充実をめざして.教育出版.
  • 日本学生相談学会50周年記念誌編集委員会(2010)学生相談ハンドブック.学苑社.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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