97:依存症

97:依存症

物質使用障害(精神作用物質への依存症)

物質への依存症薬物・アルコールの摂取によって引き起こされる薬物依存症やアルコール依存症が代表的である。ICD-10では,依存症について「精神作用物質を使用していること,あるいは特定の物質使用の欲求が存在することが依存症候群の本質的な特徴である」と定義している。ICD-10では,1年間で以下の6項目のうち,3つ以上が存在した場合に依存症と診断される。

  1. 物質を摂取したいという強い欲望あるいは強迫感。
  2. 物質摂取行動を統制することが困難(抑制の喪失)。
  3. 離脱症状。
  4. 耐性の証拠。
  5. 物質使用以外の楽しみや興味を無視。物質を摂取せざるを得ない時間や,その効果からの回復に要する時間が延長する(物質中心の生活)。
  6. 精神的身体的問題(臓器障害,抑うつ気分状態)が悪化しているにもかかわらず,物質使用を続ける。

2013年に改訂されたDSM-5では依存(dependence)と乱用(abuse)の概念がまとめられ,「使用障害(use disorder)」の表現が採用されている。

物質使用障害の中心となる臨床上の特徴は,依存物質(薬物・アルコール等)を使用したいという,非常に強く,個人の意志では抵抗が困難な強迫的な欲求(渇望)である。精神作用物質の効果が反復作用しているうちに次第に低下していくこと,あるいは,使用初期と同じ効果を得るためには使用量を増やさなければならない現象を,耐性という。離脱症状とは,精神作用物質を長期間使用した後に,その物質を一過的に中断するか,摂取量を著しく減少した場合に生じる,一連の身体・精神症状を指す(手の振戦,発汗,不眠,幻覚,離脱せん妄など)。

わが国で蔓延している違法薬物は覚せい剤であり,ここ10年間,年間1万人以上の検挙数が続いている。違法薬物だけでなく,一部の抗不安薬や睡眠薬も依存を引き起こす。アルコール使用障害者は,わが国には109万人がいると推定されているが,実際に診断され,適切な治療を受けている者は4万人程度に過ぎない。アルコール使用障害は大うつ病性障害の合併や自殺,事故のリスクを高めるだけでなく,肝臓や膵臓,心血管系や神経系など多岐にわたる臓器障害も引き起こす。

ギャンブル障害(ギャンブル依存症)

精神疾患としてのギャンブルへの嗜癖は,ICD-10では「病的賭博」,DSM-5では「ギャンブル障害」と呼称される。DSM-5では,「ギャンブル障害」は「臨床的に意味のある機能障害または苦痛を引き起こすに至る持続的かつ反復性の問題賭博行動」と定義される。ギャンブル障害では,ギャンブルに対するブレーキがきかないコントロールの障害であり,再発リスクがある。また,ギャンブルの問題が深刻化すると,借金問題が生じるだけでなく,家族関係の悪化や社会的な信用の喪失といった問題が生じてくる。

(松井一裕

文  献
  • American Psychiatric Association(2013)Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, the 5th Edition: DSM-5. Washington, DC: American Psychiatric Publishing.(日本精神神経学会監修,高橋三郎・大野裕・染矢俊幸ほか訳(2014)DSM-5:精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.)
  • World Health Organization(1992)The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders: Clinical Descriptions and Diagnostic Guidelines. World Health Organization.(融道男・中根允文・小見山実ほか監訳(2005)ICD-10精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン(新訂版).医学書院.)

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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