90:非行少年・犯罪者への支援

90:非行少年・犯罪者への支援

矯正施設では,非行少年や犯罪者の再犯防止や社会復帰の手助けになることを目指して,種々の心理支援をおこなっている。例えば,動機づけ面接法(William & Stephen, 2002)という協調性,喚起性,自立性の3要素から構成される面接法がある。協調性とは,クライエントの経験や展望を尊重し,意向を受け入れながら協働的に面接を遂行する,面接者の姿勢のことをいう。喚起性とは,変化への動機や資源をクライエントが本質的に保持していると想定し,クライエントの考えや目標,価値観を引き出して,変化しようとする内的動機づけを強化しようとすることを示す。そして自律性は,面接者がクライエントの権利や自己決定能力を認め,自分自身の目標と価値観に従って,内側から変化していくように支援することをいう。動機づけ面接法の要諦は,「変化の責任はクライエントの中にある」と考えることである。この動機づけ面接法は,特に,性犯罪者の面接で用いられている(William & Stephen, 2002)。性犯罪者は,自分の起こした犯罪に関して,その際の自分自身の心理状態を直視することが難しいため,治療を受けるという状況を受け入れることに困難を示すことも少なくない。しかし,動機づけ面接法では,評価のフィードバックや,個人の選択権,治療参加の決定権があることなどから,性犯罪者が面接に参加しやすい要素を備えている。動機づけ面接法に基づく心理面接に参加したクライエントは,面接終了時には治療目標に到達していたという報告もあり,ある一定の治療効果が認められている。

法務省(2011)は,被害者の視点を取り入れた教育を矯正教育の重要な柱の一つとしている。この教育は,被害者の命を奪った犯罪者や,被害者の身体に重大な被害をもたらした犯罪者に,自らの犯罪と向き合うことで,被害者やその遺族などの心情を認識させ,その遺族などに誠意をもって対応し,再び罪を犯さない決意を固めさせることを目標としている。法務教官や法務技官といった刑事施設の職員や民間協力者が指導者となり,ゲストスピーカー等による講話やグループワーク,集団指導と個別指導等が取り入られている。1単元50分,12単元を3~6カ月で実施する。ただし,法務省(2011)の「被害者の視点を取り入れた教育」検討会では,犯罪者が自分自身の被害体験にとらわれて,被害者の心情に着目しにくい場合や判決内容を十分に理解していない場合があるため,導入として,自他を大切にし,他者の痛みを感じ理解し尊重する指導を行うことが必要と示された。また,被害者の実情や心情を伝えるゲストスピーカーの講話が一方通行の働きかけで終始することがあるため,矯正施設側は,講話前後に被収容者が内容を理解するための指導を行い,更生の意欲を高めさせておく必要があるとも指摘された。さらに,講話に対する聴講者からのフィードバックが不十分であるとの指摘もあるため,ゲストスピーカーと聴講者との双方向のコミュニケーションが可能な講演などの実施も検討する必要があると示された。

加えて,警察庁および各都道府県警察は,犯罪の被害に遭遇された方々への精神的支援や経済的支援などのために情報提供やカウンセリング,給付金制度を設けており,犯罪被害者支援に関する取り組みも充実させている。これらの対応は,性犯罪被害者,暴力団犯罪被害者,交通事故被害者,ストーカー被害者など犯罪種別ごとに実施されている。また,警察庁や検察庁,弁護士会,医療機関,地方自治体が共同して立ち上げた公益社団法人全国被害医者支援ネットワークは,全国の都道府県8県に設置され,犯罪被害者遺児に対する奨学金給与や生活相談などを実施をしたり,地域社会全体で犯罪被害者を支える取り組みもおこなっている。

(山脇望美・河野荘子)

文  献
  • 法務省(2011)「被害者の視点を取り入れた教育」検討会を開催したことについて.https://www.moj.go.jp/kyousei1/kyousei05_00121.html(2018年5月15日閲覧)
  • Willian, R. M. & Stephen, R.(2002)Motivational Interviewing, 2th Edition. The Guilford Press.(松島義博・後藤惠訳(2007)動機づけ面接法:基礎・実践編./松島義博・後藤惠・猪野亜朗訳(2012)動機づけ面接法:応用編.星和書店.)

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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