69:心理療法およびカウンセリングの限界

69:心理療法およびカウンセリングの限界

心理療法やカウンセリングは万能ではなく限界がある。心理療法はさまざまな病理水準の人々に行われているが,それぞれのクライエントに対して,心理療法が適しているか,どの心理療法が適しているか等については十分に吟味する必要がある。場合によっては効果が少ないばかりか悪影響を及ぼしかねない。心理療法の効果研究には,一事例実験,ランダム化比較実験,メタ分析,プログラム評価研究などがある(下山,2011)。メタ分析とは,同じ課題についてそれぞれ独立に行われた研究の結果を統合して,その研究課題についての総合的な結論を導くための統計的方法であり(下山,2011),おおむね心理療法の効果が確認されている。ただし,心理療法の技法要因の影響は比較的低いという報告もあり,心理療法の限界もあることがうかがえる。

心理療法の中断については,セラピストとクライエントが治療関係の中で互いに怒りと敵意を増幅させてしまうことに起因するものがあり,岩壁(2007)は負の相補性(negetive-complementarity)によるものと指摘する。このときのセラピスト側の感情は逆転移としても理解される。転移(→62)は治療関係の理解に有益となる場合もあるがセラピストが適切に理解することができていない場合には中断につながることがある。また,クライエントが問題について内省的でない場合など,状況によっては動機づけ面接(motivational interviewing)を行うことが望ましい。動機づけ面接とはクライエントの中にある矛盾や両価性の中から本人が変わりたい方向を見出し、チェンジ・トークを引き出しながら行動の変化を援助していく手法である。

(三後美紀)

文  献
  • 岩壁茂(2007)心理療法・失敗例の臨床研究―その予防と治療関係の立て直し方.金剛出版.
  • 下山晴彦(2011)臨床心理学を学ぶ1:これからの臨床心理学.東京大学出版会.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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