95:心身機能・症候

95:心身機能・症候

人体の正常構造と機能:人間の身体は,約60兆個のさまざまな種類の細胞からなる多細胞生物である。そして,さまざまな機能と身体構造が,階層構造で成り立っている。生命の単位である細胞から,同一の構造と機能持つ細胞の集まりが組織である。一定の構造と機能を持つ組織の集まりが器官(臓器)であり,共通の機能を持つ器官の集まりが器官系(系統)と呼ばれ,人体は約10系統から構成される。10系統とは,①運動器系(骨,軟骨,関節,靱帯,筋肉),②呼吸器系(肺,気道),③循環器系・脈管系(心臓,動脈,静脈,毛細血管,リンパ管),④消化器系(口腔・咽頭・食道・胃・小腸・大腸・肛門などの消化器と,唾液腺・肝臓・胆のう・膵臓などの消化腺),⑤血液・造血器系(骨髄・血液),⑥泌尿器系(腎臓,尿路),⑦生殖器系(生殖に関わる器官),⑧脳・神経系(脳,中枢神経系と末梢神経),⑨内分泌系(内分泌線,生活活性物質),⑩皮膚・感覚器系(皮膚,感覚器)がある。

また人体は,中軸部にあたる体幹と,体肢に区分される。体幹は,上方から①頭部,②頸部,③胸部,④腹部,⑤骨盤部に区分され,体肢は,一対の上肢と下肢からなる。人体の構造と心身機能は年齢,性別,個体で異なり,特に性別による差は大きく,生殖器の構造や機能が異なる。加齢によっても構造と機能は変化する。小児期では細胞が急激に増加し,組織の機能が発達していくが,老化(生理機能の低下)は20~30歳以降に起こり,老年期ではさまざまな機能が著しく低下する。加齢に伴う心理・精神機能の変化は,青年期以降アイデンティティの確立と共に,精神的に成熟していくとされるが,環境や経験などによる個体差が大きい。知能に関しては,加齢によって言語理解などの結晶性知能は60歳まで緩やかに上昇するが,それ以外の流動性知能は20歳以降に徐々に低下する。その中で最も著明であるのが,記憶障害である。特に近時記憶の障害は目立つが,生理的加齢の場合はエピソードの再認が可能で記憶障害の自覚がある。

症候:症候とは患者が示すさまざまな訴えや診察所見のことである。医師は症候学的な枠組みによって症候をきちんと記述することで,診断の重要な手がかりにする。以下に示すめまいや倦怠感,呼吸困難などの一般症候はさまざまな疾患に起こりうるものであり,常に身体的疾患と心理・社会的病態を同時に想起しながら考える必要がある。なお,心身症においては,他にも食思不振,不定愁訴,頭痛,睡眠障害,微熱など多彩な身体症状がみられることが多い。

めまいは,回転性のめまい(vertigo)と,めまい感(diziness)の2つに分けられる。回転性のめまい発作は,メニエール症候群や,前庭機能障害によるものが多く,眼振を伴うことが多いが,心因性では眼振を認めないことが多い。めまい感は起立性低血圧症や椎骨脳底動脈循環不全症などが多く,頭重,動悸,食欲不振などを伴うことが多い。一方クラクラするめまいは,過換気症候群,低血糖,うつ病などでしばしば訴えられる。

倦怠感は,易疲労感や脱力感とほぼ同義であるが,自覚症状として個人差が大きく,多くの疾患の初期または慢性期に出現する。日本で最も頻度が高い疾患は,感冒,上気道感染症である。慢性発症で最も頻度が高いのが,仮面うつ病,不安障害,身体表現性障害などの心因性の疾患である。

呼吸困難は,心臓・呼吸器系の疾患に多い症状であるが,健常者でも過重な労作によって感じる息切れの程度の強いものである。正常な呼吸運動は,1分間に約15回であり,その過程に困難を感じる状態である。また心理的な問題によっても,過呼吸などの症状から引き起こされることがある。

(古井由美子)

文  献
  • 荒木英爾ら(2012)改訂人体の構造と機能:解剖生理学.建帛社.
  • 筒井末春・中野弘一(1996)新心身医学入門.南山堂.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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