78:虐待と貧困

78:虐待と貧困

日本の子どもの相対的貧困率は,平成28年国民生活基礎調査によると13.9%であった。これは,日本の17歳以下の子どものおよそ約7人に1人が等価可処分所得の中央値の半分以下である相対的貧困に該当することを表している。さらに,ひとり親家庭の相対的貧困率は,50.8%と半数を超えており,深刻な社会福祉問題となっている。松本ら(2013)によれば,養育者の経済的不利は,社会的孤立とも関連しており,養育者のメンタルヘルスの問題や子どもの障害との重複も多いが,社会的介入や支援につながりにくく,さまざまな養育困難を起こしやすい。また,今日の児童虐待は貧困を背景としているとも言われるように,養育者の経済的困窮や社会的孤立は,身体あるいは精神的な健康問題,若年妊娠や望まない妊娠,親自身の被虐待経験,子どもの障害など児童虐待の背景にある複合的な要因と重複する。

児童虐待(→108)とは,子どもの心身の成長および人格の形成に重大な影響を与えるとともに,次の世代に引き継がれるおそれもあるものであり,子どもに対する最も重大な権利侵害である(厚生労働省,2013)。児童虐待は,児童虐待防止法において,保護者および児童を現に監護する者による児童への暴力や性行為の強要,暴言など積極的に子どもの心に傷を負わせる身体的虐待,性的虐待,心理的虐待と必要な愛情や栄養,保護を与えないネグレクトの4種類が定義されており,保護者の意図とは無関係に子ども側にとって有害かどうかで判断される。なお,児童虐待防止法における児童とは18歳に満たない子どもであり,「保護者」および「児童を現に監護する者」には児童の親権者のみでなく,母親の内縁関係にある者なども含まれる。

児童虐待を受けている児童や非行少年など保護者に監護させることが不適当であると認められる児童,遺棄など保護者のない児童を要保護児童とよび(児童福祉法第6条),児童虐待によって保護者と過ごすことが不適切であると判断された要保護児童は,保護者に代わって公的責任で社会的養育を受ける。これを社会的養護(→79109)とよぶ。

児童虐待の背景には,貧困や社会的孤立,親のメンタルヘルス,子どもの障害など複数の要因が複雑に絡み合っているため,単一機関での支援では不十分である。そのため,平成16年の児童福祉法改正よって,関係機関が要保護児童等に関する情報を共有し,支援内容の協議を行う要保護児童対策地域協議会が設置された。これに基づき,要保護児童が在宅支援になった場合には,市町村区に設置されている要保護児童対策地域協議会を通して関係機関の協働によって要保護児童およびその家族のサポートが行われる。また,妊娠中の胎児への虐待もその後の子どもの心身の成長発達に影響を与えることから,若年の妊婦や妊婦健康診査未受診の妊婦,複雑な家庭内事情や前子への虐待が認められた場合など,出産後の子育てにリスクを抱える妊婦を特定妊婦とし,出産前から要保護児童対策協議会を通じて出産後の養育について支援が開始される。

(脇田菜摘)

文  献

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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