84:認知症のアセスメントと支援

84:認知症のアセスメントと支援

超高齢社会の進展に伴い,認知症高齢者数も増加している。認知症に対する施策の一つとして厚生労働省は地域包括ケアシステム(→7)の構築を掲げている。地域包括ケアシステムでは,2025年を目途に,重度な要介護状態なっても住み慣れた地域で自分らしい人生を続けることができるよう,医療・介護・予防・住まい・生活支援が包括的に確保される体制を目指している。

認知症の人が,地域での生活を継続することを支援するためには,認知症を早期発見・早期介入することで,認知症の進行を緩やかにすることが必要である。早期発見につなげるために,認知症のスクリーニング検査として,MMSE(Mini-Mental State Examination;森ら,1985)やHDS-R(改訂長谷川式簡易知能評価スケール;加藤ら,1991)がよく用いられている。両者のカットオフポイントはそれぞれ23/24,20/21であるが,軽度の認知機能障害を検出するためには,より詳細な認知機能検査の実施が必要である。

認知症への支援では,まずは認知症のアセスメントが必要であり,アセスメントの結果をもとに支援がなされる必要がある。適切なアセスメントのためには,生物-心理-社会的な包括的アセスメントの視点が欠かせない。生物的な要因としては,認知症の原因疾患や認知機能障害の程度,生活障害の程度,身体合併症などがあげられる。心理的要因としては,BPSD(behavioral and psychological symptoms of dementia;認知症に伴う行動・心理症状)としての抑うつ,不安,興奮,暴言,妄想などの精神症状,社会的要因としては,介護による家族の身体的・心理的負担,経済的困窮,ソーシャルサポートの有無などが挙げられる。認知症の原因疾患や症状は医学的な知識であるが,原因疾患によって認知症本人の状態像も影響を受けるため,認知症に関する基本的知識が必要である。

前述のように,地域包括ケアシステムでは認知症の人や介護者が,住み慣れた地域の中で穏やかな暮らしを継続できることを目指す。よって,包括的アセスメントの結果に基づいて,生活の中の治療が行われる。認知症の場合,根治治療は現段階では困難であるため,支援の中心は介護となる。専門職・行政・団体等の役割と連携を踏まえ,介護サービス,医療との連携,インフォーマルサービスの調整,家族調整などの個別のケアマネジメントが行われる。心理職が認知症のアセスメントに関わるのはもっぱら医療現場であるが,今後は在宅の認知症ケア場面においても,心理職による種々のアセスメント結果がケアマネジメントに活かされるのが望ましい。

認知症への心理療法的なアプローチとしては,回想法があげられる。回想法は高齢者の過去の人生に焦点をあて,よき聞き手とともに高齢者の人生の統合をはかろうとする方法である(黒川,2008)。日本ではこれまで,高齢者の中でも認知症の人を対象に病院や高齢者施設において,グループで行われることが多かった。回想法の効果は,認知機能の改善ではなく,QOLの維持に焦点づけられている。

また,認知症の人を支えるためには,認知症の人を支える家族を支援することも重要である。家族支援の方法の一つとして,これまで介護家族に対する心理教育が実施されてきている。介護家族は長期にわたる介護の中で,多くのストレスや不安を抱えている。今後は他の疾患や障害と同様に,心理的負担の軽減としてカウンセリング的な手法で介護者を支援するアプローチも望まれる。

(鈴木亮子)

文  献
  • 加藤伸司・下垣光・小野寺敦ほか(1991)改訂 長谷川式簡易知能評価スケール(HDS-R)の作成.老年精神医学雑誌,2; 1339-1347.
  • 黒川由紀子(2008)ライフサイクルからみた老年期と認知症.In:黒川由紀子:認知症と回想法.金剛出版,pp.27-47.
  • 森悦朗・三谷洋子・山鳥重(1985)神経疾患患者における日本語版Mini-Mental Stateテスト有用性.神経心理学,1; 82-90.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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