85:教育心理学の基礎知識

85:教育心理学の基礎知識

ここでは授業改善に役立つ教育心理学の知見を取り上げ解説する。例えば授業の終わりに,指導法A(学習内容を丁寧に振り返らせる)・指導法B(発展的な課題に取り組ませる)のどちらを行う方が効果的かは,その対象児童・生徒の学力が高い・低いで異なるだろう。このように,個人の特性(この場合は学力)の違いによって,処遇(この場合は指導法)の効果が異なることを適性処遇交互作用(aptitude treatment interaction; ATI)という(図1)。学習に影響を及ぼす個人の特性としては,他にも原因帰属の仕方がある。原因帰属とは,何らかの事象が生起した場合,その原因を推測するプロセスのことで,ワイナーWeiner, B.(1979)は,それを3つの次元(原因の所在,原因の安定性,原因の統制可能性)から整理した。例えば算数テストの結果が悪かった時に,「能力」に原因帰属すれば,「自分は能力が低いのだから勉強しても仕方がない」と考え,「普段の努力」に原因帰属すれば,「今度のテストでは努力しよう」と考えるだろう。ところが,「普段の努力」に原因帰属した場合でも,人によっては,その努力をしない場合がある。「毎日1時間算数の勉強をすれば」(行動),「算数のテストでよい点が取れる」(結果)であろうとわかっていても(結果期待),自分がそれをできるという自信(効力期待)がなければ,その行動は行われないからである。バンデューラBandura, A.(1977)は,行動の先行要因となる期待を「結果期待」と「効力期待」とに区別し,ある状況において必要な行動を効果的に遂行できるという確信を自己効力感(self-efficacy)とよび,その重要性を指摘した。

図1 適性処遇交互作⽤の例

動機づけも学習に影響を及ぼす要因として知られている。例えば,学習すること自体が楽しいというように,活動そのものが「目的」になっている場合,それを内発的動機づけ(intrinsic motivation)といい,ご褒美をもらえるからとか,やらないと怒られるからなど,活動が何かのための「手段」になっている場合,それを外発的動機づけ(extrinsic motivation)という。内発的動機づけは,主体的な学習を促進する重要な概念の1つと考えられてきたが,近年は,その2項対立的な枠組みを,自律性の程度によって連続的にとらえ直すモデルが注目されている。また学習場面で,学習者が自分の理解度や思考過程などを,自分で観察・管理・評価することをセルフモニタリング(self-monitoring)という。これはメタ認知方略の1つで,セルフモニタリングを通して自ら学習方法の調整を行うことで,効果的な学習が期待できる。

(町 岳

文  献
  • Bandura, A.(1977)Self-efficacy: Toward a unifying theory of behavioral change. Psychological Review, 84; 191-215.
  • Weiner, B.(1979)A theory of motivation for some classroom experiences. Journal of Educational Psychology, 71; 3-25.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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