63:行動論的アプローチ

63:行動論的アプローチ

1930年代にスキナーSkinner, B. F.は,行動に先行する明らかな原因が環境側に存在しない随意的な行動については,ワトソンWatson, J. B.が提唱した刺激と反応(S-R行動主義)だけでは説明できないと考え,行動の決定因子を環境側に見つけ出そうとした。スキナーは先行刺激に誘発されない代わりに,過去に行った行動に後続した刺激の変化に影響される行動を,オペラント行動と名づけた。ある行動(レバーを押す)をした結果,良い結果(エサが得られる)が得られる経験をすることによって,ある行動(レバーを押す)が生じる頻度が高まり(強化),反対に,悪い結果(電気刺激がある)を得ることによってある行動(レバーを押す)が生じる頻度が低くなる(弱化)という基本原理を発見し検証した。これらの基本原理を人に応用したのが応用行動分析学である。1950年代にはいると主にアイゼンクEysenck, H. J.,ウォルピWolpe, J.,スキナーらの功績に基づいて,人の苦悩や障害を改善することを目的とした治療アプローチが発展した。行動療法とは,学習理論に基づいて,行動の変容を目標としてなされる治療技法の総称である。系統的脱感作法,エクスポージャー法,暴露反応妨害法などはレスポンデント条件づけに端を発する新行動S-R仲介理論,そして,強化法や消去法,刺激統制法,トークンエコノミー法などは,オペラント条件づけに端を発する応用行動分析理論に基づいた技法である。

1960年代に入ると,人の思考や記憶を研究対象とする認知心理学が台頭しはじめ,同時期にベックBeck, A. T.によって認知療法が開発された。ベックは,うつ病患者に特有な非論理的で破局的な思考や信念が存在することを発見し,その思考や信念がうつ病という結果の原因であると考えた。例えば,失恋という「事実」に対し,「自分には価値がない,希望がない」という否定的な思考をすることで,否定的な情動が生じ,その結果として「うつ病」を発症する。しかし,「二人の相性に問題があった,もっと相性のあう人がいる」と考えると「うつ病」という結果にはならないと考えた。そのため,否定的な思考や信念を修正することでうつ病の改善が望めると考え,思考や信念の変容を目的とした技法を用いる認知療法の開発に至った。

1970年代に入り,認知療法行動療法が融合され,一つの枠組みとして発展したのが認知行動療法である。行動と認知という枠組みの違いはあるが,クライエントが抱えている問題が,刺激-反応-結果という随伴性によって生じていると理解し,介入するという点では共通している。現在抱えている問題は,過去の経験を通して学習された思考や行動と,現在おかれている環境との相互作用で生じ,維持されていると捉え,生活場面で生じている問題の解決を図る。生活場面での問題解決を図るため,面接場面に限らず実際の生活場面での課題の取り組みが前提となっている。技法は多岐にわたるが,効果研究によって有効性が実証された方法を用いることが推奨されている。

2000年代には認知療法と治療的瞑想の要素を組み合わせたマインドフルネス認知療法が発展した(Segal et al., 2002)。認知療法では否定的な思考や信念の変容を目的としていたのに対し,マインドフルネス認知療法は,今ある思考や信念があるために,今の情動が喚起されている,ということに注意を向け,受容するといった注意の配り方の習得を援助する心理療法である。この他の認知行動療法の新たな潮流として,アクセプタンス&コミットメントセラピー(ACT)や境界性パーソナリティ障害と慢性的な自殺傾向をもつ人の問題に対処するために考案された弁証法的行動療法などがある。

(酒井貴庸

文  献
  • Segal, Z.V., Williams, J.M., & Teasdale, J. D.(2002)Mindfullness-based Cognitive Therapy for Depression : A New Approach to Prevent Relapse. Guilford Press.
  • Skinner, B. F.(1938)The Behavior of organisms: An experimental analysis. New York; Appleton-Century.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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