64:人間性アプローチ

64:人間性アプローチ

 人間性アプローチは人間性心理学の理論に基づくアプローチ法を指す。人間性心理学(ヒューマニスティック心理学)とは主体性・創造性・自己実現といった人間性の肯定的側面を重視した心理学の潮流で,行動主義や精神分析と一線を画した第三勢力として位置づけられる。1962年にその中心的人物であるマズローMaslow, A. H. によってアメリカ・ヒューマニスティック心理学会が結成されたことが人間性心理学の正式な出発点となる。

クライエント中心療法:人間性心理学の代表的な心理療法はロジャーズRogers, C. のクライエント中心療法である。彼は自らの臨床経験を通して,「人間は自己を実現し維持し強化しようという基本的傾向,成長への衝動を持っている」と考えるようになった。また「パーソナリティの変化における6つの必要十分条件」を提唱し,その中から,治療者の基本的な態度として「治療者の純粋性または一致」「クライエントへの無条件の肯定的関心」「共感的理解」の3条件を挙げている。また彼は,日常の不適応はクライエントの自己概念と実際の経験との間の不一致によるものと考え,両者がより一致した状態になることを治療目標とする。

クライエント中心療法は,心理療法としてだけでなく,人間と人間関係の成長促進に対する1つの基本的アプローチの提唱でもあった。すなわちここから,1960年代に入って心理的成長を求めるエンカウンター・グループが発展していった。さらに1970年頃からロジャーズは,人間関係の諸問題へのアプローチとして,パーソン・センタード・アプローチという名称をより多く使用するようになった。

ゲシュタルト療法:ゲシュタルト療法(Gestalt Therapy)は実存主義的心理療法の一つであり,創始者はパールズPerls, F. である。ゲシュタルトという言葉は「形態」「全体」「完結」「統合」などを意味するドイツ語に由来する。ゲシュタルト療法はクライエントが自らの感情に気づき「形態」にして表現すること,人や物事を「全体」として捉え,心残りなど終わっていない経験を「完結」へと目指し,まとまりのある方向へと人格の「統合」を志す。技法として,ホットシート,ファンタジー・トリップ,夢のワーク,エンプティ・チェアなどがある。1970年代に日本に紹介され,医学領域や教育領域などでの応用が報告されている。

フォーカシング:フォーカシングはロジャーズの弟子のジェンドリンGendlin, E. によって考案された心理療法および自己理解のための方法である。心理療法で用いる場合は「フォーカシング指向心理療法」と呼ばれ,治療が目的ではない場合には単に「フォーカシング」と呼ばれている。ジェンドリンはパーソナリティの変化を説明するために,体験過程理論を提唱し,その具体的な技法としてフォーカシングが開発された。フォーカシングとは,内面の心身未分化な,言葉になる前の「感じの流れ」のどこか一点に注意の焦点を当て,そこからおのずと示されてくる「意味」に気づくようにせしめる技法である。鍵概念にフェルトセンス,パートナーシップなどがある。ジェンドリンはフォーカシング指向心理療法において,大事なのは,第1は治療関係,第2は傾聴,第3はフォーカシングとしている。

これ以外に,人間性心理療法としてよくとりあげられるのは,交流分析,サイコドラマなどがある。交流分析はバーンBerne, E. による人格理論とその心理療法である。サイコドラマは心理劇とも呼ばれ,モレノMoreno, J. L. によって創始されたグループ・アプローチの一つである。

(葛 文綺)

文  献
  • 倉戸ヨシヤ(2005)ゲシュタルト療法.In:松原達哉・楡木満生・澤田富雄・宮城まり子編:心のケアのためのカウンセリング大事典.培風館,pp.15-18.
  • 村瀬孝雄(1989)フォーカシング.In:伊藤隆二編:心理治療法ハンドブック.福村出版.pp.137-154.
  • 日本人間性心理学会編(2012)人間性心理学ハンドブック.創元社.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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