94:組織論

94:組織論

組織とは企業,大学,病院,政府,労働組合など複数の人間が何らかの目標を共有し,その達成に向けて協働するシステムであり,組織の変化や行動のメカニズムを解明する学問は組織論と呼ばれる。バーナードBarnard(1938)は組織を「2人以上の人々の意識的に調整された活動や諸力の体系」と定義し,その構成要素として「コミュニケーション」「貢献意欲」「共通目的」を挙げている。このうち「貢献意欲」は組織が維持存続し,目的を達成するために必要であるという視点から数多くの動機づけ理論が発展してきた。それらの理論は,動機づけの要因に着目した内容理論(欲求段階説,ERG理論,動機づけ-衛生理論など)と動機づけの心理的プロセスに着目した過程理論(目標設定理論,期待理論,職務特性理論など)に大別され,組織における人事制度や教育訓練といった実践に応用されている。

組織の全体像を理解する枠組みとしては,組織風土と文化がある。組織風土とは「組織の方針,取り組み,流儀,および組織において称賛,期待される行動に対する共有された認識」(Schneider et al., 2011)であり,個人の知覚や主観的認識の集合体として捉えられている。一方,組織文化とは「外部への適応および内部の統合化に取り組む過程で組織によって学習された,共有される基本的前提,価値観,信念のパターン」(Schein, 1985)であり,学習を通じた創造物としてメンバーの行動規範となる点で風土とは区別される。シャインScheinによると組織文化は文化的現象が可視化可能な程度によって「人工の産物」「信奉された信条と価値観」「基本的な深いところに保たれている前提認識」の3つのレベルに分けることができ,儀式やシンボル,スローガンといったかたちで体現化されるといわれている。さらに組織の安全性に関する文化は安全文化と呼ばれ,安全の重要性に対する組織メンバーの認識や事故等の危険防止策に対する取り組みおよび姿勢のことを意味する。安全文化は「報告する文化」「正義の文化」「学習する文化」「柔軟な文化」によって構成されており,こうした文化の醸成が組織事故の防止につながるといわれている(Reason, 1997)。このように,組織風土と組織文化はともに組織内で共有された認識として組織メンバーの行動,ひいては組織が生み出す成果に影響を及ぼす。また,文化は創造されるものであるという知見をもとに,組織文化の形成にはリーダーシップが重大な影響を及ぼすことが論じられてきた。リーダーシップについては数々の定義や見解があり,そのうちの1つに「集団目標の達成に向けてなされる集団の諸活動に影響を与える過程」という定義がある(Stogdill, 1974)。20世紀前半にあたる初期のリーダーシップ研究においては,優れたリーダーの特性や資質を解明することに主眼が置かれ,組織の経営者や管理監督者が主な研究対象であった。しかしその後,リーダーの特性から行動へ,さらにはリーダーシップ発揮時の状況要因へと研究の視点が移り,1970年代以降はフォロワーの認知や意識変革が重視されるようになった。こうした研究を経て,今日のリーダーシップ研究における共通認識としては,リーダーシップとは1)特定の能力や地位に依拠するものではなく,組織メンバーの誰しもが発揮しうる機能であること,2)リーダーの働きかけとフォロワーの受容と反応という対人関係のなかで展開する相互的な影響過程であることが挙げられる。

(前川由未子

文  献
  • Barnard, C. I.(1938)The Functions of the Executive. Harvard University Press.(山本安郎・田杉競・飯野春樹訳(1968)新訳 経営者の役割.ダイヤモンド社.)
  • Reason, J. T.(1997)Managing the Risks of Organizational Accidents. Brookfield. VT: Ashgate.(塩見弘監訳(1999)組織事故―起こるべくして起こる事故からの脱出.日科技連出版社.)
  • Schneider, B., Ehrhart, M. G., & Macey, W. H.(2011)Perspectives on organizational climate and culture. In: Zedeck, S. Ed.: APA Handbook of Industrial and Organizational Psychology: Vol.1. Building and Developing the Organization. Washington, DC: American Psychological Association. pp.373-414
  • Shein, E. H.(1985)Organizational Culture and Leadership. Jossey-Bass.(梅津祐良・横山哲夫訳(2012)組織文化とリーダーシップ.白桃書房.)
  • Stogdill, R. M.(1974)Handbook of Leadership: A Survey of Theory and Research. New York: Free Press.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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