100:診断法

100:診断法

我が国では,ドイツ精神医学の流れをくみ,精神病を内因性精神病(統合失調症,躁うつ病,非定型精神病),器質性精神病(脳器質性疾患による精神障害)と症状性精神病(脳以外の身体疾患による精神障害),中毒性精神病(中毒性物質による精神障害)の3つをあわせた外因性精神病,心因性精神病(心理的要因による精神障害)の3つに分類し,神経症は精神病と区別して位置づけられてきた。米国では,人格に目を向けた力動精神医学が中心であったが,1980年にアメリカ精神医学会が改訂した診断基準DSM-III以降,精神障害を脳神経学的障害との視点から区分された診断基準に従い診断する操作的診断が主流となった。この考えは,世界保健機関(WHO)の疾病分類ICD-10「第Ⅴ章 精神及び行動の障害(F0-F9)」にも取り入れられることとなった。その後,DSMは改定を重ね,現在はDSM-5(Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, the 5th Edition)が公表されている。

ICD分類は,正式な名称を「疾病及び関連保健問題の国際統計分類(International Statistical Classification of Diseases and Related Health Problems)」といい,疾病,傷害および死因の統計を国際比較するためWHOから勧告された統計分類であり,厚生労働省はこれに準拠した分類で日本語版を作成している。

ICD-10「 第Ⅴ章 精神及び行動の障害」では,F0からF9までの10の障害区分が設定されている。F0「症状性を含む器質性精神障害」には認知症および脳疾患・脳損傷による精神障害が,F1「精神作用物質使用による精神および行動の障害」には中毒性精神障害が分類され,これは従来の外因性精神病に該当する。F2「統合失調症,統合失調型障害及び妄想性障害」は統合失調症および類似の疾患が分類され,F3「気分(感情)障害」には双極性感情障害(躁うつ病)および大うつ病が分類され,両者は内因性精神病に相応する。F4「神経症性障害,ストレス関連障害及び身体表現性障害」は,従来の神経症が該当する。F5「生理的障害及び身体的要因に関連した行動症候群」には,摂食障害,非器質性睡眠障害,性機能不全,産褥に関連した障害が分類されている。F6「成人のパーソナリティ及び行動の障害」という形で,力動精神医学の名残を認めるが,診断基準の内容は力動論的視点ではなく,状態分類の範疇に留まっている。F7「知的障害(精神遅滞)」,F8「心理的発達に障害」,F9「小児期及び青年期に通常発症する行動及び情緒の障害(分離不安障害,愛着性障害など)」と残りの3区分は,小児の発達の障害に関わる内容になっている。F8の「心理的」はpsychologicalの訳であり,その意味するところは心因性の意味では無く脳機能の意味で,自閉症やアスペルガー症候群などの広汎性発達障害(広汎化機能の障害),言語(機能)の発達障害,学力(機能)の発達障害などが分類されている。DSM-5でこの区分は,脳神経学的障害であることを明確にし,「神経発達症群/神経発達障害群」と記され,広汎性発達障害は自閉症スペクトラム障害となっている。発達障害者支援法施行規則で,F9も発達障害に含めるとされており,発達障害は,F7知的障害を除く(F7は知的障害者福祉法に該当)幅広い病態を含んでいる。発達障害の診断においては,神経学的発達の障害(F8)と情緒的発達の障害(F9)を鑑別することが求められる。ICD-10では,アスペルガー症候群の診断に際して,小児期の愛着性障害(F94.1,F94.2)や強迫性障害(F42.-)を除外(鑑別)するように指示されている。

DSM-5では,「神経発達障害群」「統合失調症スペクトラム障害及び他の精神病性障害群」「双極性障害及び関連障害群」「抑うつ障害群」「不安障害群」「強迫性障害及び関連障害群」「解離性障害群」「身体症状症及び関連症群」「食行動障害及び摂食障害群」「睡眠-覚醒障害群」「性機能不全群」「性別違和」「物質関連障害及び嗜癖性障害群」「神経認知障害群」「パーソナリティ障害群」などの分類となっており,2018年に公表予定のICD-11もこの分類に近いものになっている。

(古井 景)

文  献
  • American Psychiatric Association(2013)Diagnostic and Statistical Manual of Mental Disorders, the 5th Edition: DSM-5. Washington, DC: American Psychiatric Publishing.(日本精神神経学会監修,高橋三郎・大野裕・染矢俊幸ほか訳(2014)DSM-5:精神疾患の診断・統計マニュアル.医学書院.)
  • Benjamin J. S., Virginia A. S. & Pedro R.(2015)Kaplan & Sadock’s Synopsis of Psychiatry: Behavioral Science / Clinical Psychiatry, 11th Edition. Wolters Kluwer Health.(井上令一監修,西宮滋子・田宮聡監訳(2016)カプラン臨床精神医学テキスト:DSM-5診断基準の臨床への展開 第3版.メディカル・サイエンス・インターナショナル.)
  • 小泉準三編(1985)臨床精神医学.丸善.
  • 下山晴彦・中島義文編(2016)公認心理師必携:精神医療・臨床心理の知識と技法.医学書院.
  • World Health Organization(1992)The ICD-10 Classification of Mental and Behavioural Disorders: Clinical Descriptions and Diagnostic Guidelines. World Health Organization.(融道男・中根允文・小見山実ほか監訳(2005)ICD-10精神および行動の障害:臨床記述と診断ガイドライン(新訂版).医学書院.)

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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