53:情報の把握と手法

53:情報の把握と手法

心理アセスメント

心理アセスメントとは,何らかの心理支援が必要とされる可能性のある対象(クライエント)に対して,必要と考えられる情報を心理学的方法によって収集し,心理学的側面から見立て,援助の方針を決定することである(松本,2010)。そのため,心理アセスメントは心理支援を行う上で非常に重要な役割を果たしている。

アセスメントについて考える際,しばしば精神医学的診断との相違点が論じられる。精神医学的診断は,DSM-5やICD-10といった明確で客観的な診断基準に沿って行われる(→50100)。一方,心理アセスメントにおいてはこのような基準は存在せず,援助者によってアセスメント内容が異なる可能性がある。しかし,そうであるがゆえに,多角的な視点からクライエントを理解することが可能であり,病的側面だけでなく健康な側面をも評価することが重要である。

上述したように,心理アセスメントを行う際は,クライエントを見立て援助方針を決定するための,情報収集と分析を行う必要がある。その方法には,面接法・観察法・検査法の3つが挙げられ,さまざまな側面からの包括的アセスメントが求められる。

面接法とは,クライエント本人やその家族などと面接を行い,情報を収集する方法である。面接の形態としては,構造化面接・非構造化面接・半構造化面接がある。構造化面接はあらかじめ決められた質問項目に沿って行われるため,必要な情報を客観的に得ることができる。面接者の影響を受けにくいため面接の信頼性を確保することができる一方,面接者主導で行うため一定以上の情報が得られないという欠点もある。一方,非構造化面接とは質問項目をあらかじめ決めずにクライエントが自由に語る面接である。さまざまな情報を幅広く得られる一方,アセスメントにとって必要な情報を得られない可能性がある。

さらに,構造化面接と非構造化面接をあわせたのが半構造化面接である。あらかじめ決められた質問項目に沿いつつ,面接者が自由に質問を加えながら情報を収集することができる。

面接による心理アセスメントにおいて重要となってくるのは,インテーク面接である。インテーク面接は受理面接と呼ばれ,治療面接に入る前に行われる面接のことである。その際,クライエントの抱える問題やニーズ,必要な情報を収集しながら,クライエントとラポール(信頼関係)を築いていくことが必要である。

また,近年,福祉や司法の現場で司法面接という面接手法が注目されている。司法面接とは,「事件や事故の被害者,あるいは目撃者となった可能性がある子どもから『何があったか』について,心理的負担を最小限にしつつ,できるだけ正確な情報をできるだけ多く収集することを目指した面接法」である(仲,2016)。他にも子どもの被疑者,高齢者など脆弱性をもつ大人への聴取にも使われている。

観察法とは,表情・態度・行動などを観察することによって,クライエントを理解する方法である。クライエントの実際の姿を,ありのまま捉えられる点が特徴である。一方で,クライエントの行動を恣意的に評価してしまう可能性には注意が必要である。関与しながらの観察(→54),自然的観察,実験的観察という3種類がある。

検査法とは,標準化された心理検査を実施することによって,クライエントの知的発達や心理状態をアセスメントする方法である。検査法のメリットは,観察法や面接法では曖昧で見過ごされる点を数値やプロフィールとして客観的に示すことができる点である。一方,各検査はクライエントの一側面を測定しているに過ぎないという限界がある。そのため,目的に応じて数種類の検査を組み合わせて実施することが重要となってくる。

心理検査を組み合わせて実施することをテストバッテリーと呼ぶ。上述したように,1つの検査だけでクライエントのすべての側面を評価することはできず,多くの側面から理解するためにテストバッテリーを組む必要がある。

心理検査の実施における注意点

心理検査を実施する際に重要なこととして,インフォームド・コンセントがある。インフォームド・コンセントとは,「説明と同意」のことであり,心理検査においては検査についてクライエントに説明し,実施の同意を得ることを意味する。その具体的な内容は,①クライエントに心理検査についての十分な情報が提供されていること,②同意はクライエントの自由意志によるものであること,③検査は同意を得て実施している最中であっても,途中でやめることができること,④不明な点については,質問することができること,⑤検査内容は記録され,必要な場合には第三者の検討が可能であること,⑥検査資料は厳重に保管され,情報は目的以外の使用はないこと,である(松本,2018)。検査対象が子どもであっても,子どもが分かる言葉で説明をし,同意を得るよう努めるべきである。

また,クライエントとラポールを形成することも心理検査を実施する上で重要である。ラポールとはクライエントと支援者との間の信頼関係のことで,検査の実施に際しては検査者が被検者との間で築く関係のことをいう。クライエントは検査に対する緊張,自分の能力や内面が知られてしまうことへの不安など,さまざまな感情を抱えて検査を受けにくる。クライエントが落ち着いて検査に取り組めるよう,配慮する必要がある。しかし,そのような配慮をしてもクライエントの不安がぬぐえない場合は,検査時間中にその不安をどのように処理していくのか確認するべきである。

さらに,心理検査を実施することによって,クライエントに大きな負担がかかることも留意すべき点である。テストバッテリーを組んで複数個の心理検査を実施すると,それだけ多くの情報を得られる。しかし,実施すればするほどクライエントにかかる体力的・精神的負担は大きくなる。その結果,クライエントの支援のために実施したはずの検査が,かえってクライエントを傷つけてしまうことも起こりうる。テストバッテリーを組む際は,必要最小限の組み合わせで,最大限の結果が得られるようにする必要がある。

収集した情報の分析

さまざまな方法によって必要な情報を収集した後は,それらを統合してクライエントの援助方針を決定していくことになる。ここで有効になってくるのが,機能分析ケースフォーミュレーションである。機能分析とは,面接・観察・検査によって収集された情報をもとに問題行動を機能の観点から分析することで,問題を引き起こし,さらに維持させる要因を明らかにすることである(下山,2008)。

つまり,クライエントが抱えているさまざまな問題が,クライエントの生活や人生においてどのような機能と役割を果たしているのかを考えることである。機能分析で得られたことは,その後の援助の基盤となる。ケースフォーミュレーションとは,機能分析によって明らかになった問題のメカニズム理解に基づき,援助方針を決定していくことである(下山,2008)。ケースフォーミュレーションには問題の明確化・探索・定式化・介入・評価という5つの段階がある。

(福岡明日香)

文  献
  • 松本真理子(2010)子どもの臨床心理アセスメント.In:松本真理子・金子一史編:子どもの臨床心理アセスメント―子ども・家族・学校支援のために.金剛出版,pp.9-17.
  • 仲真紀子(2016)子どもへの司法面接―考え方・進め方とトレーニング.有斐閣.
  • 下山晴彦(2008)臨床心理アセスメント入門―臨床心理学は,どのように問題を把握するのか.金剛出版.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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