6:公認心理師の資質向上

6:公認心理師の資質向上

公認心理師のみならず,専門職の資格取得はミニマム・スタンダード(最低基準)であり,資格を取得した後も,自己研鑽や相互研鑽を行い,専門家として資質向上の責務が課せられている。これは公認心理師も例外ではなく,生涯にわたって学習を継続させていく必要がある。

ストルテンバーグStoltenbergとデルワースDelworth(1987)は統合的発達モデルを提唱し,3つの発達段階とそれぞれの段階に応じたSV(スーパービジョン)のあり方を提唱している。またスコウフォルトSkovholt & ロンスタットRønnestad(1995)は,インタビュー調査を基に心理臨床家の専門性の発達を8段階に分けて,中心的課題やその段階の感情体験などを詳細に記した。その後,訓練を受ける前の素人的な援助を行う第1期から,臨床経験20年以上の熟練した専門家となる第6期に分けられた心理職の成長モデルを提示している(Rønnestad & Skovholt, 2003)。ヨーロッパや,北アメリカではこうした心理職の職業的発達に必要な知識や経験,価値観など心理職が持つべきコンピテンシー(技能)をモデルとして示し,このモデルに基づいた訓練が広がってきている。

コンピテンシー・モデルには,心理の専門家としての姿勢,反省的実践,科学的知識,治療関係,倫理観などが含まれる基盤コンピテンシー,心理アセスメントや介入,コンサルテーションといった実際の技能にかかわる機能コンピテンシー,教育や訓練,博士課程修了後のスーパービジョンといった訓練と実践の水準である職業的発達の3次元から成る。これらのコンピテンシーの中でも,自分自身の能力と技能を見定め,振り返りや修正を行うといった反省的実践が重要となる。専門家自身の思考の癖や,価値観,臨床活動のあり方などを振り返り,自己内省を行うことで,専門家としての姿勢や行動の変容につながる気付きを得られることができる。

こうした反省的実践は一人で行うには限界があり,スーパービジョンや教育分析を活用することでより効果的に行うことができる。スーパービジョンはケースの理解を深めるだけではなく,スーパーバイザーがスーパーバイジーと行う関係性の構築や,質問の方法などを体験する場でもあり,モデリング学習としても機能している。スーパービジョンを受けることによって,自己認識への気づきや自己効力感が高まるため専門家が自身の課題に気づき,それを解決していくきっかけとなり得る。

教育分析は,より専門家自身の心理的課題に焦点をあてて個人面接が行われる。専門家の中に未解決の心理的課題があった場合,同種の問題を呈するクライエントとの面接において,問題に向き合えないがために面接の進展を無意識に妨げることがある。これを防ぐためにも,教育分析を通して自身の問題や心理的特徴について理解することが大切である。その他,研修会や学会などに参加することで,心理学に関する知見を深めること,グループスーパービジョンなどで問題解決能力を高めていくことも資質の向上といえるだろう。

公認心理師は専門家としてだけではなく,個人としても自己内省を行う必要があり,徐々に職業的自己と個人的自己が統合されるプロセスが職業的発達として位置付けられている。また,公認心理師である以上,最新の科学的知見や方法論など社会の変化を捉えながら,生涯,自己研鑽,相互研鑽を行う必要がある。継続的に学習を続け,モチベーションを維持しつつ業務に携わるためにも,公認心理師自身の心理的健康に目を向けることも重要であるといえよう。

(三谷真優)

文  献
  • Stoltenberg, C. D. & Delworth, U.(1987)Supervising Counselors and Therapists: A Developmental Approach. San Francisco: Jossey-Bass.
  • Skovholt, T. M., & Rønnestad, M. H.(1995)The Evolving Professional Self: Stages and Themes in Therapist and Counselor Development. Chichester, West Sussex, UK: Wiley.
  • Rønnestad, M. H. & Skovholt, T. M.(2003)The journey of the counselor and therapist: Research findings and perspectives on professional development. Journal of Career Development, 30; 5-44.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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