92:メンタルヘルス不調の支援

92:メンタルヘルス不調の支援

現在の労働環境においては,労働者のメンタルヘルス不調による個人の健康生活の阻害,職場における生産性の低下やコストの増加,労災補償のリスクなどの問題から,これへの対策が急務となっている。

メンタルヘルス不調のメカニズムとして,職場のストレス要因(仕事量の負担,役割葛藤・役割曖昧性,ハラスメント等の対人葛藤など)によってストレス反応(職務不満,抑うつ,身体愁訴など)が引き起こされ,その影響は個人要因(年齢,性別,タイプA行動パターンなど)や職場外要因によって調整されること,さらにこの影響を上司・同僚・家族からのソーシャルサポートが緩衝することが明らかとなっている(Hurrell & McLaney, 1988)。ストレス反応が非常に強くなると,うつ病などの精神障害や循環器疾患などの心身症を引き起こすのみならず,過労死自殺につながることもある。

この問題に対して厚生労働省(2006)は,「労働者の心の健康の保持増進のための指針(メンタルヘルス指針)」において,セルフケア,ラインによるケア(管理監督者が労働者に対して行うもの),事業場内産業保健スタッフによるケア,事業場外資源によるケアの4つのケアを推奨している。具体的な進め方としては,不調を未然に防止する一次予防,不調を早期に発見し適切な対応を行う二次予防,不調によって休職した労働者の職場復帰を支援する三次予防という3つの予防が重視されている。

このうち未然防止である一次予防を強化するために法制化されたものが,ストレスチェック制度(→107)である。2014年に改正された労働安全衛生法により,労働者の心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)およびその結果に基づく面接指導の実施が事業者に義務づけられ(ただし労働者数50人未満の事業場においては努力義務),2015年12月より施行されている。個々の労働者のストレス結果をフィードバックすることでセルフケアを促すことや,集団ごとの集計・分析によって職場環境の評価とその改善につなげることが目指されている。

またメンタルヘルス不調による休職においては復職後の再発・再休職の高さが問題であるため,リワーク支援による三次予防も重視されている。リワーク(rework)とは復職(return to work)の意味である。厚生労働省(2004)はメンタルヘルス不調による休職者の職場復帰支援として,①病気休業開始および休業中のケア,②主治医による将来的な職場復帰可能の判断,③職場復帰の可否の判断および職場復帰プランの作成,④最終的な職場復帰の決定,⑤職場復帰後のフォローアップ,という5つのステップを示している。この過程では,治癒・回復という医療的な側面と業務の量や質の配慮という就業的な側面の両方を総合的に検討して,労働者が主体的に復職できるように支援することが重要となる。また,生活リズムの立て直し,心理療法,業務内容の訓練といったリワーク支援プログラムも有効である。

以上のような職場での問題に対して心理的な支援を行う機関としては,企業内の産業保健機関あるいは相談室,外部EAP(Employee Assistance Program:従業員支援プログラム)会社,公共職業安定所(ハローワーク),産業保健総合支援センター,障害者職業センター,精神科医療機関などがある。

(加藤容子

文  献
  • Hurrell, J. J. Jr., & McLaney, M. A.(1988)Esposure to job stress: A new psychometric instrument. Scandinavian Journal of Work, Environment & Health, 14; 27-28.
  • 厚生労働省(2004)心の健康問題により休業した労働者の職場復帰支援の手引き.
  • 厚生労働省(2006)労働者の心の健康の保持増進のための指針.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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