93:多様性をもつ労働環境における支援

93:多様性をもつ労働環境における支援

今日の労働環境では,少子高齢化の中で国際化・高度化・多様化する経済情勢に対応するために,多様な人材を多様な方法で活用するダイバーシティ・マネジメントが求められている。これと連動して個人や社会においては,多様な生き方・働き方を目指す流れがあり,その代表的なものにワークライフ・バランス(仕事と生活の調和)がある。内閣府(2007)では,「国民一人ひとりがやりがいや充実感を感じながら働き,仕事上の責任を果たすとともに,家庭や地域生活などにおいても(略)人生の各段階に応じて多様な生き方が選択・実現できる社会」と定義している。

これらを実現するための国と企業の取り組みとして,仕事と家庭の両立支援,治療と仕事の両立支援,障害者や高齢者の就労支援などがある。仕事と家庭(育児・介護)の両立支援は,労働者が仕事と育児や介護を両立できるよう,育児・介護休業や短時間労働による就業の制限,非正規労働と正規労働との格差の是正などに取り組むものである。また治療と仕事の両立支援は,疾病を抱える労働者が治療を受けながら仕事が継続できるよう,適切な就業上の措置や治療に対する配慮を行うものである。障害者の就労支援事業は障害者の日常生活・社会生活支援の観点から行われるものであり,障害者総合支援法(2013)に則り移行支援事業と継続支援が制定されている。移行支援では,通常の事業所での雇用が可能な人を対象に,職業訓練,求職活動の支援,就職後の職場への定着の相談などが行われる。継続支援事業では,通常の事業所での雇用が困難である人に,就労や生産活動の機会の提供,職業訓練などが行われ,雇用契約を結び利用するA型と結ばず利用するB型がある。また高齢者の就労支援とは,高齢者が人生の第二ステージにおいても生き生きと活躍できるよう,雇用,相談援助や雇用情報の提供,技能講習などを行うものである。以上の取り組みにおいて心理学が貢献できることは,個人の心理相談に加え,キャリア支援や組織・職場への支援である。

キャリア(Career)とは,荷車(cart)やそのわだち(cararia)を語源としている。キャリアの定義は複数あるが,その源流にあるホールHall(1976)の研究では,1)昇進,2)専門職,3)生涯を通じた職務の連続,4)生涯を通じた役割(職業以外の役割も含む)に関する経験の連続という4種類が示されている。現在では3)や4)に該当する,個人の職業やその他の経験の積み重ねを意味することが多い。このキャリアの支援には,キャリア・カウンセリングとキャリア・コンサルティングがある。前者は20世紀初頭からアメリカで発展し我が国に導入されたものであり,National Career Development Associationは「個人がキャリアに関してもつ問題や葛藤の解決とともに,ライフ・キャリア上の役割と責任の明確化,キャリア計画,決定,その他のキャリア開発行動に関する問題解決を個人またはグループ・カウンセリングによって支援すること」と定義している。後者は21世紀に入り我が国の雇用政策の一環として開始されたものであり,「労働者が,その適性や職業経験等に応じて自ら職業生活設計を行い,これに即した職業選択や職業訓練等の職業能力開発を効果的に行うことができるよう,労働者の希望に応じて実施される相談」と定義される(厚生労働省,2001)。

組織・職場への支援は,組織開発(組織の効果性と健全性を高めることを目指した変革の実践)や職場環境改善(職務,組織,人間関係などを改善する方法)についてのコンサルテーションがある。これらが依拠する心理学知見として,モチベーションやリーダーシップといった組織行動の心理学,集団における思考や行動であるグループ・ダイナミクスの心理学,人のポテンシャルに注目して生産性や充実度を高めるポジティブ心理学などがある。

(加藤容子

文  献
  • Hall, D. T.(1976)Careers in Organizations. Glenview, IL: Scott; Foresman.
  • 内閣府(2007)仕事と生活の調和(ワークライフ・バランス)憲章.
  • 厚生労働省(2001)職業能力開発基本計画.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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