73:予防の考え方

73:予防の考え方

キャプランの三次元モデル(Caplan, 1964)によると,予防は,一次予防,二次予防,三次予防に分類され,①一次予防「疾病のない健康な人々を対象に,疾病の発生を未然に防ぎ,健康状態を促進するための働きかけ」であり,児童生徒への心の健康教育や自殺予防活動などがある。②二次予防「未だ疾病の発症には至っていないが潜在的リスクをもつ人々に対し,早期発見・早期介入を行うこと」であり,事業所のストレスチェックでハイリスク群を同定し適切な介入を行うこと等が該当する。③三次予防「すでに発病し問題を抱えている人々を対象に疾病の長期化を防ぐための働きかけ」である。慢性患者のリハビリテーション,復職支援等が含まれ,一次予防では「発生率の低下」,二次予防では「有病率の低下」,三次予防では「再発率の低下」がターゲットとなる。また,近年は予防という用語を,医学的診断がつく前の状態の人や集団に限定して用いる傾向にある(上記の分類でいう一次予防に該当)。アメリカ医学研究所IOM)は,発症の予防と治療・維持を区別した上で,予防を①普遍的予防(すべての人や集団を対象とした介入),②選択的予防(ハイリスク要因を有する人や集団を対象とした介入),③指示的予防(予兆や軽微な徴候があり,明らかなリスク要因を有するものの,すべての診断基準は満たしていない人や集団を対象とした介入)の3つのサブカテゴリーに分類する。このように予防は幅広い概念であり,その実践にはさまざまなアプローチを必要とする。その際に重要なことは,積極的に対象となる人や集団にアウトリーチしていく姿勢であろう。例えば,薬物やアルコールなどの依存症(→97)では,治療の開始が遅れ,長期化することがあるため,啓発活動や健康教育など積極的な予防的介入が必要となる。

杉岡正典

文  献
  • Caplan, G.(1964)Principles of Preventive Psychiatry. Basic Books.(新福尚武監訳(1970)予防精神医学.朝倉書店.)

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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