7:多職種連携・地域連携の意義

7:多職種連携・地域連携の意義

多職種連携

公認心理師には,国民一人ひとりの心の健康増進に寄与するために,心理アセスメントや心理面接などの専門性を発揮しながら,保健医療・教育・福祉・介護・産業などの領域で勤務する多職種との連携や心理支援の対象者(以下,要支援者)の家族との連携が求められ,総合的な視点をもちながらチームの一員として支援していくことが期待されている。

チーム医療とチーム学校

チーム医療とは,「医療に従事する多種多様な医療スタッフが,各々の高い専門性を前提に,目的と情報を共有し,業務を分担しつつも互いに連携・補完し合い,患者の状況に的確に対応した医療を提供すること」(厚生労働省,2010)である。

医療現場では,特定の疾患治療だけでなく身体・心理・社会・スピリチュアルといった要支援者全体に関わるケア(全人的医療)が志向されている。医療現場には,医師・看護師・保健師・精神保健福祉士・薬剤師・放射線技師・理学療法士・作業療法士・管理栄養士など多数の専門職が勤務しており,安心・安全な医療の提供,また患者の生活の質の向上や全人的医療の観点から,互いの専門性を活かしながら患者の症状やニーズに応じた医療をチームとして提供していくことが期待されている。

教育現場では,子どもたちの問題が複雑化・多様化している。子どもの問題は,心の問題だけではなく,家庭,経済状況,地域性,友人関係,教師との関係など,日常の環境が密接に関係しており,子どもが示す行動や症状のみを捉えアプローチしたとしても,効果的な支援にはつながらない事例が多い。そのため,子どもの問題を多面的に捉えて,多職種が連携しながらネットワークの中で支援していくチーム学校(→87)の重要性が指摘されており,教師・スクールカウンセラー・スクールソーシャルワーカー・特別支援の専門家などが連携しながら,チームとして支援していくことが求められている。

地域連携

厚生労働省によると,日本は,諸外国に例をみないスピードで高齢化が進行しており,国民の医療や介護の需要が,さらに増加することが見込まれている。そのため,要介護の状態になっても可能な限り住み慣れた地域で,医療に限らず,介護・予防・住まいや生活全般を一体的に支援し提供する地域包括ケアシステムが各都道府県や市町村が中心となって構築されている。包括的なケアを継続的に行っていくためには,さまざまな機関の連携が必要不可欠である。公認心理師は,地域にどのような支援機関があり,どのような役割を担っているのか理解をしておくこと,そして支援に携わる専門職と日頃から主体的にコミュニケーションをとり,ネットワークを築いていくことが必要である。

意義とチームにおける役割

多職種連携・地域連携によって,多面的・多角的な理解とアプローチが可能となり,それぞれの専門性を活かしながら,要支援者に対して適切で総合的な支援を提供できることに意義がある。

支援チームが有機的に連携していくためには,共通の目標を持ち,情報を共有していくことが必要である。その際,まずは互いの専門性を尊重しながら,アサーティブなコミュニケーションをとることのできる能力が求められる。また,支援に関わる組織と専門職の役割について理解し,視点やアプローチが違うことを意識しながらチーム全体で共有しやすい言葉を用いていくことも大切である。公認心理師は,個人に対する心理アセスメントや心理面接の能力とともに,チームの一員として人間関係を構築していく能力やチーム全体のマネジメント能力を高めていかなければならない。

チームにおける公認心理師の役割として,心理アセスメントや心理面接とともに,チーム全体をアセスメントし,互いの専門性を活かしながら連携できるよう橋渡しをすることが求められる。連携といっても,円滑に議論が進むばかりではなく,互いの意見がぶつかり合いチーム内に葛藤が生じることもある。その際,なぜこのような状態が生じているのかを観察し,アセスメントする視点が必要である。チームの一員として関与しながらも,全体の力動を観察する視点を持つことで,チーム内の専門職同士の思いや関係性を理解することが可能となり,その上で心理職としての見立てを伝えたり,介入したりすることで連携が促進されることもある。

公認心理師としての自己責任と自分の限界について意識し,ときには省みる姿勢も必要となる。チームにおいて心理職としてできること,できないことを見極めながら,支援会議を通じてチーム内での役割を確認し,情報を共有することが大切である。また,心理職は要支援者やその家族と一対一の関係で心理面接を行い,他職種が知り得ない情報を知っていることも多い。要支援者との間の守秘義務を遵守していくことが求められるが,より適切な支援のためにチーム内で情報を共有することが必要な場合もある。その際,要支援者や家族の意思を尊重しながら,より質の高い支援の提供のために,どの情報をどのように伝えていくことが要支援者にとって有益か判断していくことが求められる。要支援者との守秘義務とチーム内での連携には相反する側面があり,公認心理師は常に情報共有のあり方について意識し,注意深く臨んでいかなければならない。

(坪田祐季)

文  献

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

関連用語

その他の用語