2:法的義務・倫理

2:法的義務・倫理

公認心理師法第40条~43条には,公認心理師としての義務に関する主要な内容が述べられている。

第40条には「信用失墜行為の禁止」として,「公認心理師は,公認心理師の信用を傷つけるような行為をしてはならない」とされている。公認心理師という資格が社会的に認められることによってはじめてその業務ができるのであるが,ここでいう失墜行為があると,この資格の社会的信用が低減されて,業務の遂行が困難になったり,この資格を持って業務を行う人々に不利益を与えることとなるため,それらの行為を禁止しているのである。

具体的には,公認心理師であることを利用して,犯罪行為や不当な利益を得ようとする行為,多重関係の禁止などを指す。たとえば,心理支援を要する相手に対して,その相談をすることをもって脅す,高額な金銭を要求するなどが犯罪行為などにあてはまる。

また,多重関係とは,公認心理師と要支援者という関係以外の関係を持つことを意味する。たとえば,カウンセラーとクライエントの関係以外に個人的な会食をする,クライエントが手に入りやすいコンサートのチケットを提供してもらう,クライエントから一般には知り得ない勤め先の情報を聴きだして株取引を行う(インサイダー情報の取得),支援の場において何らかの勧誘を行う,などである。

このような犯罪として通常の法規でも禁止されているような行為以外に,単位認定者である大学教員とカウンセリング担当者という多重関係も含まれるが,実際には避けきれないこともあり得る。日本臨床心理士会の倫理綱領(2009)には,他の専門家がすぐに紹介できないような場合には,その問題点などを十分に理解して対処するとともに,そのことを利用者に説明した上で,利用者の自己決定を尊重することとされている。

第41条には,秘密保持についての義務が述べられている。そこでは業務上知り得た個人の秘密を漏らしてはならないとされている。また,その義務は「公認心理師でなくなった後においても,同様とする」と述べられている。このことは,前述の信用の失墜行為とも深く関連するものである。

第42条には,「保健医療,福祉,教育などが密接な連携の下で総合的かつ適切に提供されるよう」関係者との連携を保つこととし,さらに要支援者に当該の問題に係わる主治医がいる場合は,その指示に従うこととされている。このように積極的に他職種との連携を図る姿勢を求められているが,第41条の秘密保持との関係については倫理的ジレンマも生じやすく,慎重に判断することが必要と言えよう。倫理的ジレンマとは,適切な支援の根拠となる指針が複数あるような場合に生じるジレンマのことを言う。たとえば,要支援者の自己決定は尊重するべきであるが,客観的にみてその決定が妥当かどうかが疑われる場合に,対応については葛藤が存在することとなる。これらは,多職種連携など複数の専門家が係わる場合の意見の相違などの場合も相当する。

第43条では,これらの業務を行う公認心理師は,刻々変化する社会環境や業務に関して対応するために,常に知識や技能などの資質の向上の責務を持っていることについて触れている。このことは,責任ある業務を行うものとしては当然のことと言えるが,日々の業務に慣れてくると,ともすればおざなりになりかねないので,研鑽の姿勢は自覚することが必要である。その姿勢があってこその信用となるとも言えよう。

(川瀬正裕)

文  献

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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