83:虐待のアセスメントと支援

83:虐待のアセスメントと支援

虐待のアセスメント:児童虐待が疑われる児童を発見したものは,福祉事務所または児童相談所に通告しなければならない(児童福祉法第25条)とされている。通告があった後,児童相談所は,虐待の有無・程度により,在宅か,親子分離が必要かを判断する。分離の場合,一時保護か,長期的な保護かの判断を行う。適切な判断をするために,専門的な情報収集と評価が必要である。リスク度判定のために客観的尺度(リスクアセスメント基準)と照らし合わせて,緊急介入や緊急保護の要否の判断を行う。最も重要なのは,子どもの安全確認を行うことである。必要があれば保護者に出頭要求をし,それに応じない場合は,再出頭要求を行う。保護者が抵抗するときは,警察に協力を要請し,裁判所の許可状を得て臨検を行うこともある。状況によっては,子どもの緊急一時保護を行う場合もある。

援助方針の作成:児童相談所では専門的見地から,援助方針を作成する。児童福祉司による社会的診断,児童心理司による心理診断,医師による医学的診断,一時保護所の指導員や保育士による行動診断などを総合的に判断して包括的アセスメントを行う。社会診断では,虐待の内容,頻度,危険度の判断,家族の現状,子どもの生育歴,キーパーソンや社会資源などを調査する。可能であれば,保護者の意見を聞き,家庭環境や親子関係の実態を確認する。近隣からの情報や,学校・保育園等,子どもを取り巻く関係機関からの情報も収集する。心理診断では心理検査や面接等から子どもの知的発達,情緒面・行動面の特徴,心的外傷の状況,親子関係や,集団生活での適応について把握する。子ども本人の意向も確認しておく。一時保護所では,分離による不安や緊張感を抱えた子どもを生活の中でケアしながら,行動や態度,生活習慣等の様子を観察する。医学的診断では,専門的な立場から心身の状態を把握する。身体面のみならず虐待の影響による愛着障害や解離性障害,行動や適応の問題等についても配慮した診察を行う。児童相談所では,これらの情報を総合的に判断して,子どもを保護者のもとで生活させるのか,親子分離が必要なのか,その場合,里親委託か児童福祉施設入所か,施設はどの施設が妥当か等を検討し,援助方針を決定する。

児童虐待への支援法:児童虐待に対する支援としては,子ども自身へのケアや支援と保護者への指導や家族支援が考えられる。在宅の場合には,児童相談所が定期的な通所による保護者指導および子どもへのセラピーなどを行う場合もあれば,家庭に出かけていく形のアウトリーチ(訪問支援;→66)を行うこともある。

親子分離の場合,児童福祉施設では,生活の中での治療(環境療法)という考え方によるケアとともに,必要に応じて個別のセラピーも行われる。子どものケアが進んでも保護者の意識や態度が変わらなければ,子どもを家庭に帰すことは難しい。家族再統合にはさまざまな取り組みが必要となる。虐待発生につながるリスクの低減に向けた働きかけや,家族に対する心理教育的アプローチが必要な場合もある。親子関係の修復のために,面会や外出,外泊等を段階的に行い,親子関係調整を図ることが重要である。家族の再統合の際には,リスクアセスメントを再度行う。家庭復帰後の子どものケアや家族支援については,児童相談所と地域の関係機関が連携して行う。専門職と市町村などの行政,各関係団体等の役割と多職種連携(→7)について,あらかじめ明確化しておくことが望ましい。家庭や子どもの状況を把握するために,関係各機関で情報を共有できる体制をとり,要保護児童対策地域協議会(要対協:適切な支援を行うために地方公共団体が設置・運営する組織)なども活用することが必要である。

(坪井裕子)

文  献
  • 日本子ども家庭総合研究所編(2014)子ども虐待対応の手引き─平成25年8月厚生労働省の改正通知.有斐閣.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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