66:アウトリーチ

66:アウトリーチ

アウトリーチは英語のreach out(手を伸ばす)が語源で,支援者が必要に応じて「出向いていく」支援手法のことである。

もともとは福祉サービスの分野で「接近困難な人に対して,当事者から要請がない場合でも積極的に出向いていき,信頼関係を構築したり,サービスの動機づけを行う,あるいは直接サービスを提供する」支援手法として広がった概念である(船越,2016)。臨床心理実践においても,現場に出向いての心理教育,アセスメント,およびコンサルテーションや相談活動など訪問による支援が,主に地域支援で有効な手法として注目されるようになった。

訪問支援が重視されるようになった背景には,大戦後の各国における精神保健サービスの見直しがある。欧米では精神疾患を抱えた患者の「脱施設化」(入院に依存させず地域での生活へ返すこと)が重視され,心理の専門家たちは医師や看護師等の他の専門スタッフと共に地域へ出向き,地域と密着した形のサービスに関わる機会が多くなった。1970年代に米国で開発された包括型地域生活支援プログラム(Assertive Community Treatment; ACT)は当時の代表的なアウトリーチ・プログラムである。重度の精神疾患患者に対し,医療,金銭管理などの生活や就労への支援,心理教育といった包括的なサービスを,多職種で構成されたチームが訪問形式で行うもので,日本においても2003年に厚生労働省がACT事業への取り組みを開始している。他にも,児童の発達の見守り,がん患者等を対象とした緩和・終末ケア,若者を対象とした自殺予防といった多様な問題に対するアウトリーチ型の心理支援が試みられている。今後は「2025年問題(5人に1人が75歳以上となる超高齢化社会を迎える)」に備え,介護サービスも含めた地域包括ケアシステムが必要とされており,公認心理師はその一員としての働きを期待される(一般財団法人日本心理研修センター,2017)。

制度として定型化された「訪問型」とは異なる目的でのアウトリーチ活動として,緊急事態が生じた現場に出向き,現地の機能回復が図られた時点で撤収する「緊急支援型」があげられる(小澤,2017)。震災,風水害といった災害時支援,事故や事件,身近な対象の喪失など大きな心理的ショックを受ける事態に遭遇した個人,組織,あるいは地域への緊急支援が該当する。

アウトリーチ型の支援は,専門家自らが現場へ出向くため,支援につながりにくい対象への介入が可能であり,また要心理支援者を取り巻く関係者ともアクセスしやすい。したがって冒頭で触れたように「地域支援」や「予防的介入」の手法として有効である。一方で,支援を受けることに対して負担や不安を感じるような高リスク者への対応や,虐待などの「支援を受け入れられ難い」現場への介入など,要心理支援者の生活に「入っていく」手法であるがゆえの軋轢が懸念されるケースもある。現場のさらなる混乱を避けるためには,関連法制度やリソースなどを把握し,支援者同士で話し合いながら明確な役割分担を行う必要がある。具体的には,虐待やDVなど保護に関しては「児童虐待の防止等に関する法律」「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護に関する法律」,災害支援に関しては「災害救助法」といった法で規定された支援の仕組みや,要心理支援者を取り巻く地域リソースについて知識を習得しておくこと,各々の専門性を尊重しながら十分なコミュニケーションをとること,「支援構造」に捉われすぎずに状況に合わせた支援を実践すること,以上が必要になるだろう。

(山上史野)

文  献
  • 船越知行ら(2016)心理職による地域コンサルテーションとアウトリーチの実践─コミュニティと共に生きる.金子書房.
  • 一般財団法人日本心理研修センター(2017)公認心理師現認者講習会テキスト.金剛出版.
  • 小澤康司・中垣真通・小俣和義編(2017)緊急支援のアウトリーチ─現場で求められる心理的支援の理論と実践.遠見書房.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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