77:現代社会における心理福祉的問題

77:現代社会における心理福祉的問題

2017年時点で,日本の高齢化率(高齢人口の総人口に対する割合)は27.3%であり,50年後の2060年には39.9%となると見込まれている。一方,合計特殊出生率(一人の女性が15歳から49歳までに産む子どもの数の平均)は,1975年以降,低下傾向が続き,2005年には過去最低である1.26まで落ち込んだ。近年は微増傾向が見られるものの,生産年齢人口(15~64歳の人口)としては,今後も減少することが見込まれている。こうした状況が少子高齢化と呼ばれ,高齢化対策として,高齢になっても健康で過ごせる環境づくりや意欲的に活躍できる社会作り等,および少子化対策として,子育て支援の充実や男女の働き方改革の進展等が求められている。

また,2015年の調査では,日本の相対的貧困率は15.6%であり,「6人に1人が貧困」と示されている。相対的貧困率とは,「貧困線」を下回る等価可処分所得(いわゆる手取り収入)しか得ていないものの割合である。「貧困線」とは,等価可処分所得を世帯人員の平方根で割って調整した所得の中央値の半分の額を指す。「子どもの貧困率(子ども全体に占める,等価可処分所得が貧困線に満たない子どもの割合)」は13.9%であり,世帯員が大人1人のみである家庭での貧困率は特に高い。ただ,これらの割合は2012年の調査よりも減少しており,平成25(2013)年に制定された「子どもの貧困対策の推進に関する法律」の効果と考えられている。貧困家庭における子どもは,健康,学力,心理等にも課題が生じることがわかっており,将来にわたっての「貧困の世代間連鎖」を断ち切るために今後も対策を推進することが重要である。

夫婦間暴力(DV・IPV)も,最近の社会問題の1つである。夫婦間暴力(DV・IPV)とは,配偶者や恋人など親密な関係の者から振るわれる暴力のことである。DVはdomestic violenceの略称である。国際的には,親密なパートナーからの暴力を意味するIPV(intimate partner violence)と呼ばれることが多い。平成13(2001)年に「配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(DV防止法)」が制定された。「配偶者」には,婚姻の届出をしていない事実婚の相手や,離婚後の相手も含まれる。また,生活の本拠を共にする交際相手からの暴力もこの法律が準用される。暴力の形態は,身体的暴力(殴る,蹴る等),精神的暴力(大声で怒鳴る,けなす等),性的暴力(性行為を強要する,中絶を強要する等)に分けられる。また,精神的暴力のうち,経済的暴力(生活費を渡さない等)や社会的暴力(外出させない等)は別に分類される場合もある。都道府県が設置する婦人相談所その他の適切な施設が,「配偶者暴力相談支援センター」として,相談や相談機関等の情報の紹介,一時保護等の業務を担っている。

また,認知症・高齢者への虐待(→111)の存在も近年注目されるようになり,対応が推進されてきている。平成17(2005)年には,「高齢者に対する虐待の防止,高齢者の養護者に対する支援等に関する法律(高齢者虐待防止法)」が制定された。身体的虐待(殴る,蹴る等),介護・世話の放棄・放任(ネグレクト;食事を十分与えない等),心理的虐待(怒鳴る,侮辱的な気持ちで子どものように扱う等),性的虐待(性行為を強要する,排泄の失敗への懲罰として下半身を露出させ続ける等),経済的虐待(自宅を無断で売却する,年金を本人の意思に反して使用する等)に分類される。養護者による虐待だけでなく,養介護施設従事者等による虐待もある。各市町村や地域包括支援センター等に相談窓口が設けられ,迅速で組織的に対応によって,本人および養護者を支援することが求められている。

(佐野さやか)

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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