心理支援は,要支援者が抱えている問題に触れるために,より不安定にさせる可能性もある。支援者はこのことをよく理解した上で安全確保を意識することが求められる。
安全の確保が実践されるためには,公認心理師が自らの能力の範囲において援助を行うことが必須となる。そして,専門領域の到達点をよく理解し,その水準で業務を行うことができるように,知識と技能を常に学ぶことが求められるのである。この水準を注意の水準と呼ぶが,具体的にはその領域で示されるガイドラインなどが基準となる。
さらに,要支援者の抱えている問題の質と深さ,本人や周囲の状況,病態水準などのアセスメントは当然のことであるが,自らの援助者のとしてのできる範囲のアセスメントが不可欠となる。
秘密保持や要支援者の自己決定を保証し,援助方針の説明と同意の下に支援が進められることが心理支援の基本であるが,要支援者の状態によっては,同意されていた方針を逸脱してでも行わなければならない。これは,いわゆる危機介入の一つであるが本人が社会的逸脱行動をする可能性がうかがわれた場合や身体的安全が危ぶまれるといったときは,何よりも優先して家族や,場合によっては警察などへ連絡をすることが必要である。自殺予防についても同様であるが,このようなリスクアセスメントも安全確保の重要な業務である。
また,入院が必要であってもその設備がない,必要な支援を行う専門性が支援者にない,など要支援者に必要な支援が提供できない場合は,他機関や他の専門家につなげるリファーも大切な姿勢となる。
(川瀬正裕)
文 献
- 日本心理研修センター(2018)公認心理師現任者講習会テキスト.金剛出版.