103:向精神薬の種類

103:向精神薬の種類

中枢神経系に作用して,精神機能に影響を与える薬物を総称して,向精神薬と呼ばれている。向精神薬はさまざまな種類があり,使用に当たっては,適切な診断に基づいて行うことが必要である。以下に,大まかな分類と特徴,標的疾患について述べる。

抗精神病薬:主たる適応は統合失調症である。抗幻覚・妄想作用と鎮静作用を呈する。他に,双極性障害の躁状態,せん妄,脳器質性疾患における精神病症状,自閉スペクトラム症や知的能力障害における興奮・易刺激性,トゥレット障害,その他の非特異的な不穏・興奮状態などで用いられている。副作用として,錐体外路症状(→102)等を呈する。従来からある定型抗精神病薬に代わって,近年非定型抗精神病薬が使用されてきている。非定型抗精神病薬は,急性症状だけでなく,陰性症状にも効果があるされており,錐体外路症状が軽度で使用しやすいが,肥満や糖尿病,高プロラクチン血症などの副作用のリスクも認められている。

抗うつ薬:主たる適応はうつ病等の抑うつ障害である。他に,強迫症,パニック症,社交不安症,心的外傷後ストレス障害,夜尿症などでも用いられている。副作用として,抗コリン作用(→102)などが見られる。以前は,三環系あるいは四環系がよく使われていたが,抗コリン作用や抗ヒスタミン作用による眠気・だるさが強く出ることがあった。近年はそうした副作用の少ないSSRI,SNRIなどがよく使用されているが,賦活症候群(→102)に注意が必要である。

気分安定薬:主たる適応は双極性障害である。抗躁作用だけでなく,うつ状態にも有効で,再発予防作用がある。炭酸リチウムの他に,カルバマゼピン,バルプロ酸等があるが,炭酸リチウム以外は抗てんかん薬としての側面を持つ。副作用は薬によりさまざまである。炭酸リチウムは,治療に有効な血中濃度と中毒濃度が近いため,血中濃度を頻回に測定しながら調整をする必要がある。

抗不安薬・睡眠薬:抗不安薬と睡眠薬は,同じグループの薬である。多くはベンゾジアゼピン系薬物で,抗不安作用,鎮静催眠作用,筋弛緩作用,抗てんかん作用を有するが,その中で,抗不安作用が強く,鎮静催眠作用が弱いものが抗不安薬,鎮静催眠作用が強いものが睡眠薬として使用されている。他に,セロトニン受容体作動性抗不安薬,メラトニン受容体作動性睡眠薬なども用いられている。副作用として,眠気,ふらつきなどの他に,脱抑制や興奮などの逆説反応や依存(→102)なども問題も見られる。

抗認知症薬:アルツハイマー型認知症の症状の悪化を遅らせる作用があるとされている。近年いくつかの薬が開発されているが,認知症自体の進行を止める作用のある薬はまだ認められない。

精神刺激薬:我が国で用いられているのはメチルフェニデートのみで,適応はナルコレプシーと注意欠如多動症である。副作用は,食欲不振,不眠,長期服用時の成長への影響などが認められる。

薬剤性精神障害

インターフェロンによる抑うつ状態,ステロイドによる抑うつ状態,躁状態,幻覚妄想状態などが知られているが,多くの薬で,頻度がさまざまであるが精神症状の報告が見られる。特に向精神薬は,不穏・興奮,不眠などの精神症状を来すこともある。使用されている薬剤についての情報を参照することが必要である。

(野邑健二)

文  献
  • 野村総一郎・樋口輝彦監修,尾崎紀夫・朝田隆・村井俊哉編(2015)標準 精神医学 第6版.医学書院.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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