91:非行・犯罪に関する精神病理

91:非行・犯罪に関する精神病理

反抗挑戦性障害は,怒りっぽく,権威ある人物や大人と口論になり,挑発的な行動を持続させ,執拗に仕返しを繰り返す特徴のある障害である。特に,よく知っている大人や仲間との対人関係の中で示され,自らの行動を周囲の理不尽な要求や状況に対する反応であると正当化する傾向がある。保護者による一貫性のない養育やネグレクトが原因の1つであるとされる。

反抗挑戦性障害の一部は,素行障害に移行する。素行障害は,いじめや脅迫行為,強姦,武器を使用した重大な身体的攻撃,動物に対する残虐行為,故意による建物などの放火や破壊,窃盗,虚偽などを引き起こすことが特徴であり,ICD-10だと行為障害,DSM-5だと素行症と示されている。素行障害は,重大犯罪に結びつきやすく,固定的で変化が乏しい性格傾向として非行領域において注目を集めている(森ら,2014)。素行障害によって引き起こされる種々の反社会的行動は,退学や頻繁な転職,望まない妊娠,場合によっては,事件を起こし,逮捕・拘留といった結果につながる。

素行障害の一部がさらに犯罪性を強めると,反社会性パーソナリティ障害となる。反社会性パーソナリティ障害は,法や倫理に適った行動をとらず,自己中心的で他者への配慮を欠き,他者を平気でだます等の虚偽性の高さを示し,無責任さ,無謀さなどの特徴がある。

近年,齊藤ら(1999, 2000, 2008)によって,「DBDマーチ(反社会性の進行;Disruptive Behavior Disorde)」という概念が提唱されている。これは,注意欠如・多動症(ADHD)の二次障害という観点から,反抗挑戦性障害や素行障害,反社会性パーソナリティ障害を位置づける概念である。学童期に著しく反抗的になるADHDの一部の子どもたちに対して反抗挑戦性障害の診断がなされ,その中の一部が学童期から思春期にかけて反社会的行動を反復的・持続的に示すようになって素行障害と診断されるに至り,さらに,そのごく一部が青年期の段階で反社会性パーソナリティ障害を呈するに至るという,加齢とともに診断名が変遷していくプロセスがDBDマーチの特徴である。DBDマーチを停止させるための重要な臨界点は,反抗挑戦性障害である。

(山脇望美・河野荘子)

文  献
  • 森則夫・杉山登志郎・岩田泰秀(2014)臨床家のためのDSM-5:虎の巻.日本評論社.
  • 齊藤万比古・原田謙(1999)反抗挑戦性障害.精神科治療学,14; 153-159.
  • 齊藤万比古(2000)注意欠陥/多動性障害(AD/HD)とその併存障害:人格発達上のリスク・ファクターとしてのAD/HD.小児の精神と神経,40; 243-254.
  • 齊藤万比古(2008)行為障害概念の歴史的展望と精神療法.精神療法,34; 265-274.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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