102:薬理作用

102:薬理作用

薬物動態

経口摂取された薬物は,腸管で吸収されて血液中に入る。血液中の薬物は,血液脳関門を通過して脳内に入り,中枢神経系への薬物作用を発揮する。一方で,血液中の薬物は肝臓で代謝され,腎臓より排泄される(ただし,炭酸リチウムは肝臓での代謝は受けず,腎臓から直接排泄される)。薬物の作用時間の長さは,血中濃度の半減期で表される。半減期が短い薬物は短時間作用型であり,長い薬物は長期間作用型となる。複数の薬物を服用している場合には,吸収や排泄の過程で相互に影響し合うことがあり,注意が必要である。

薬理作用

向精神薬は,中枢神経系に作用して,精神機能に影響を与える薬物である。中枢神経系に作用するにあたっては,神経細胞から神経細胞へと信号を伝える部分であるシナプスに作用する神経伝達物質の働きを調整する。抗精神病薬はドパミン受容体遮断作用があり,ドパミンが受容体に結合するのを邪魔する。抗うつ薬は神経細胞におけるセロトニンやノルアドレナリンの再取り込みを阻害することでシナプス間の濃度を高めて,神経伝達物質の作用を増強する働きとなる。代表的な抗不安薬であるベンゾジアゼピン系では,神経伝達物質であるGABAの働きを促進して,神経細胞興奮の抑制作用を強めることで抗不安作用を生じる。

副作用

薬物の使用によって生じた好ましくない有害な反応が有害事象であり,その中で薬物との因果関係が否定されないものを副作用としている。

向精神薬に見られる副作用のうち,重要なものについて述べる。

錐体すいたい外路症状:定型抗精神病薬などの使用で見られる。ドパミン受容体遮断作用に起因するものであり,急性ジストニア(筋肉の不随意収縮による眼球上転,頸部・四肢の捻転など),アカシジア(ムズムズした感覚を覚え,じっとしていられない),パーキンソン様症状(手指振戦,寡動,筋固縮などパーキンソン病のような症状)遅発性ジスキネジア(数年以上内服持続してから発症。顔面を中心とした筋肉の不随意運動)などがある。

悪性症候群:抗精神病薬の開始,増量を契機として発症する。抗うつ薬の中止によって起こることもある。高熱と筋強剛・振戦,著明な脱水,意識障害等を呈する。死に至ることもあるため,原因薬物の中止,補液,クーリングなどを含めた全身管理が必要となる。

抗コリン作用:アセチルコリンの作用が抑制されて起こるもので,三環系,四環系などの従来型の抗うつ薬,抗パーキンソン薬などでしばしば認められる。口喝,鼻閉,便秘,排尿困難,眼圧の上昇などがみられる。

依存:ベンゾジアゼピン系の抗不安薬や睡眠薬でみられる。急に中止することで不安,不眠,焦燥感などが出現し,結果として薬を止めることが難しくなる。徐々に減薬することが必要である。

賦活症候群:思春期へのSSRI投与によって自殺関連事象(希死念慮,自傷行為)のリスクが高まるとの報告があり,一時は18歳未満への使用が禁忌とされた時期があった。現在は使用可能であるが,十分な注意が必要とされる。自殺関連事象の背景には,賦活症候群があるとされている。これには,不安,易刺激性,衝動性,アカシジア,軽躁状態などさまざまな病態が含まれている。

(野邑健二)

文  献
  • 上島国利・上別府圭子・平島奈津子編(2013)知っておきたい精神医学の基礎知識(第2版).誠信書房.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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