65:グループ・アプローチとシステム論的アプローチ

65:グループ・アプローチとシステム論的アプローチ

集団療法(グループ・アプローチ)は,「自己成長をめざす,あるいは問題・悩みをもつ複数の対象者に対し,一人または複数のグループ担当者が言語的コミュニケーション,活動,人間関係,集団内相互作用などを通して心理的に援助していく営みである」と定義される(野島,1999)。集団療法の端緒は内科医プラットPratt, J.H.による結核患者に対するクラス法とされており,現在では,モレノMoreno, J.L.らのサイコドラマ,ロジャースRogers, C.R.らのエンカウンターグループ,自助グループ活動,集団認知行動療法の立場に基づくSSTやメタ認知トレーニングといったアプローチがある。集団療法の実施者は,心理職に限らず,看護師,保健師,ソーシャルワーカー,作業療法士,理学療法士など多職種にわたることも特徴的である。また,集団療法は,医療,福祉,教育,司法,産業,コミュニティなどのさまざまな領域に適用され,治療だけでなく,心の健康教育(予防教育)として応用できる利点を持つ。ヤーロムYalom(1995)は,集団療法に特有な要因を「療法的因子」と名付け,①希望をもたらすこと,②普遍性,③情報の伝達,④,初期家族関係の修正的な繰り返し,⑤愛他性,⑥社会適応技術(ソーシャルスキル)の発達,⑦模倣,⑧対人関係,⑨グループの凝集性,⑩カタルシス,⑪実存的因子の11因子が集団療法による主体験だと述べている。これらの要因は,集団療法を実施する際にグループ内にて相互依存的に働いている。実施者は,実施者とメンバー,メンバー同士の相互作用を活性化し,グループ過程の中で,それぞれのメンバーがどのような治療体験に繋がったのかについて把握することが求められる。

システム論的アプローチとは,家族療法の分野において,個人が呈するさまざまな問題をシステム理論に依拠した視点から見立て,アプローチを行う心理療法の総称である。このアプローチでは,家族を構成するメンバーの複雑な相互作用と関係性からなる一つのまとまりをもった有機的システムとして捉え,問題や言動の背景となる文脈との関連やシステムを構成するメンバー同士の関係性のあり方,メンバー間の相互作用や繰り返されるパターンといった視点を強調する。また,問題にまつわる一連の出来事を原因と結果の関係により直線的に説明するのではなく,原因と結果が幾重にも連鎖する循環的で回帰的なプロセスにより把握していく。したがって,問題の原因を追及し,いずれかの家族メンバーを悪者にすることなく,またパーソナリティや病理性といった個人内の精神世界の探求という視点から離れ,問題を取り巻く人々のやりとりに着目し,クライエントの望む目標に向け,セラピストとの共同作業により目標へ到達することを目指す。

理論的基礎となるシステム理論においては,フォン・ベルタランフィvon Bertalanffy, L.の「一般システム理論」(1940年代から理論化された非線形の科学論)に端を発するが,家族システム内外の変化と連動して逸脱を制御し,形態を維持,安定させる自己制御性やシステムの発展や変化を増幅する変換性といった概念が導入され展開している(若島,2018)。システム論的アプローチの代表的なモデルには,ミニューチンMinuchin, S.による構造的家族療法,ボーエンBowen, M.の多世代家族療法などがある。また,ブリーフセラピーとして分類されることもあるMRI(Mental Research Institute)モデルや社会構成主義(→9)の影響と共に発展したバーグBerg, I.K.らの解決志向ブリーフセラピーも含め展開している。

(狐塚貴博・板倉憲政)

文  献
  • Yalom, I. D.(1995)The Theory and Practice of Group Psychotherapy, 4th Edition. Basic Books.(中久喜雅文・川室優監訳(2012)ヤローム グループサイコセラピー.理論と実践.西村書店.)
  • 野島一彦編(1999)グループ・アプローチ.現代のエスプリ,No.385.
  • 若島孔文(2018)システミック・アプローチ.In:野島一彦・繁桝算男監修,野島一彦・岡村達也編:公認心理師の基礎と実践3:臨床心理学概論.遠見書房,pp.99-112.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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