110:障害関係

110:障害関係

近年の障害者に関する制度整備において重点が置かれてきたのは,障害者を排除しないインクルーシブな社会の構築という点である。“Nothing About Us, Without Us.”のスローガンを掲げた世界の障害者団体の参加のもとに,2002年から8回の会合を経て,2006年12月に国連総会にて障害者権利条約が採択された。翌年9月に日本も同条約に署名し,批准に向けて国内法の整備に取りかかった。その過程のなかで障害者基本法等が改正されたが,実効性の乏しさ等の理由から批判を受ける経緯もあった(永野ら,2016)。しかしその後,2009年から始まった4年間の障害者制度改革により,理念だけではなく現実に障害者に対する差別を禁止する法制度が整えられた。2011年6月に障害者虐待防止法の成立,同年7月に障害者基本法の改正が行われ,2012年6月に障害者自立支援法の改正による障害者総合支援法への名称変更,2013年6月に障害者差別解消法の成立および障害者雇用促進法の改正が行われた。これらの法整備により,日本は2014年1月に権利条約についての批准書を国連に寄託し,141番目の締約国・機関となったのである。

障害者虐待防止法では,虐待が発生する場所を家庭内だけではなく施設や職場も想定し,虐待の主体によって障害者虐待を,養護者によるもの,障害者福祉施設従事者等によるもの,使用者によるものの3つに区分している。また,虐待の類型として身体的虐待,放棄・放置(ネグレクト),心理的虐待,性的虐待,経済的虐待の5つに分類している。障害者虐待を社会全体で防止していくことに重きが置かれており,虐待の発見者には通報義務が課せられている(厚生労働省,2011)。

障害者総合支援法では,法に基づく日常生活・社会生活の支援がインクルーシブ社会を実現するため,社会参加の機会の確保および地域社会における共生,社会的障壁の除去に資するよう,総合的かつ計画的に行われることを基本理念としている(厚生労働省,2012)。支援の対象に難病等の疾病が含まれ,従来の障害程度区分を改めて,障害の多様な特性その他の心身の状態に応じて必要とされる標準的な支援の度合いを総合的に示す「障害支援区分」が導入されている。そのサービスには,障害福祉サービス(介護給付・訓練等給付),自立支援医療,補装具,相談支援,地域生活支援事業等がある。

障害者差別解消法は,行政機関および事業者による差別を禁止するものである。障害者基本法の基本的な理念にのっとり,全ての国民が障害の有無によって分け隔てられることなく,相互に人格と個性を尊重し合いながら共生する社会の実現に資することを目的としている(内閣府,2013)。障害の「社会モデル」を踏襲したものであり,社会的障壁を取り除くための必要かつ合理的な配慮をしないことが障害を理由とする差別となることが規定されている。このような社会モデルの理念を法律上の規定として落とし込んでいるものは,他国ではあまりみられないユニークなものである(DPI日本会議,2016)。

上記の法律の成立により,障害者雇用促進法でもその目的に,「雇用の分野における障害者と障害者でない者との均等な機会及び待遇の確保並びに障害者がその有する能力を発揮することができるための措置」についての文言が追加された(永野ら,2016)。これにより,雇用の分野における障害を理由とする差別的取り扱いを禁止し,事業主に障害者が職場で働くに当たっての支障を改善するための措置を講ずることが義務付けられた(厚生労働省,2013)。また,障害者基本法改正で発達障害等が障害者の定義に含まれたことを受け,障害者雇用促進法でも障害者の範囲を身体障害・知的障害に加え発達障害も含めることとなり,法定雇用率の算定基礎にも加えられることとなった。

(中島卓裕)

文  献
  • DPI日本会議(2016)合理的配慮,差別的扱いとは何か─障害者差別解消法・雇用促進法の使い方.解放出版社.
  • 永野仁美・長谷川珠子・富永晃一(2016)詳説障害者雇用促進法─新たな平等社会実現に向けて.弘文堂.

※用語の出典は,『公認心理師基礎用語集 よくわかる国試対策キーワード117』(2018年8月発売)となります。最新版(2022年5月発売)は⇩をご覧ください。

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