大島崇徳(神戸松蔭こころのケア・センター)
シンリンラボ 第29号(2025年8月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.29 (2025, Aug.)
『謎解きゲーム』とは,「どこかに閉じ込められる」「数時間後に世界が滅びてしまう」といった閉鎖的な状況から,さまざまな手がかりを見つけて謎を解き,脱出や解決を目指すゲームである。数人で協力してプレイすることが推奨されるこの謎解きゲームは,他の協力ゲームとは少し違った感動を体験できる興味深い装置となりうる。長い準備期間を経て偶然降りてくるひらめきと,そこに他者がいるということ。『謎解きゲーム』で体験できる特別な感動に,心理臨床の場に通じるものを感じた。今回は『謎解きゲーム』についてご紹介し,その体験について少し考えてみたい。
1.『謎解きゲーム』の歴史
『謎解きゲーム』の原型である『脱出ゲーム』は,2001年頃からインターネット上でプレイするブラウザゲームとして流行した。1人称視点で描かれた部屋のさまざまな場所(ソファーの下や本棚の後ろなど)をクリックすることで探索し,見つけた謎を解くと(例えばロッカーのカギが見つかるなどして)次の手がかりや謎にアクセスすることができる。謎を解くことで探索範囲を広げていき,最終的には出口の扉の鍵を開けて脱出するという流れが一般的である。
2007年にブラウザゲームであった『脱出ゲーム』を実際の建物を使って行うというイベントが京都で開催された。この試みは後に『リアル脱出ゲーム』(SCRAP)として広く知られるイベントとなり,大変な人気を集めることになった。
さらに,2016年から2017年には,オランダ,ドイツ,フランスで謎解きをテーマにしたボードゲームが誕生する。これらは,『Escape Room:The Game』(Identity Games 邦訳版:ジーピー),『EXIT』(KOSMOS 邦訳版:Group SNE),『UNLOCK!』(SPACE Cowboys 邦訳版:Hobby JAPAN)という人気シリーズとして現在も新作が制作されており,日本語版も販売されている。その後も『持ち帰り謎』としてさまざまな団体が謎解きキットを制作販売していたり,インターネットで参加できるように演出された『リアル脱出ゲーム』の公演も開催されるようになり,家庭でも本格的な『謎解きゲーム』が楽しめるようになっている。

謎解きゲーム
2.『リアル脱出ゲーム』とは
実際にイベント会場に訪れて参加する『リアル脱出ゲーム』の代表的なスタイルは,広いホールに参加者が一同に集まり,参加者同士で4人から6人のチームを組んでテーブルに座り,協力して謎を解く。テーブルには謎(パズルのような問題)が書かれた紙が数枚入った封筒と暗証番号で開く鍵がかかった小箱が置いてある。それぞれの公演にはストーリーがあり,最初に物語の登場人物に扮したスタッフから状況の説明とクリアに必要な条件,場合によっては「重要なヒント」が伝えられる。1時間の制限時間が伝えられ,開始の合図で参加者はテーブルの封筒を開き,会場中に散らばった謎を解くための手がかりを集めて問題を解き,鍵のかかった小箱を開ける。そこからさらに次の謎が出てきて……という具合に挑戦は続いていく。1時間後,ゲーム終了が告げられ,謎の解答と解説を終えた後,脱出を成功させたチームが発表される。脱出できるチームは全体の1割ほどと難易度は高めだが,難しいからこその緊張感と成功した時の達成感,失敗した時の悔しさを忘れられず,ついついまた参加してしまうといった人気のイベントである。
3.「そこでは話せた」――Aの不思議な体験
これまでに会ってきた人たちの中にも『謎解きゲーム』が好きな人がいて面接でもたびたび話題になることがあった。人に話しかけることができず,話しかけられても一言二言で会話が続かないため友人ができないクライエント(以下A)は,それでも人を求めていて,家族以外と話す機会であった毎回の面接を楽しみに来てくれていた。Aは過去に1度だけ『リアル脱出ゲーム』に1人で参加したことがあり,その時の体験を深いため息と共に繰り返し話してくれた。人と緊張して話せない自分が,その瞬間だけは別人のように話すことができ,自然な関わりができたのだと言う。ついつい出てしまった「どうしてそんなことが起こったの?」という私の問いかけに,Aは「それがわかんないんですよ!」と興奮気味に応じつつ,「みんなで同じ方向を向いている」「自分にも役割があって役に立てる」「解けた時のハイタッチが快感」などさまざまな言葉で貴重な体験を切り分けてくれたのだが,実際のところは,もっとさまざまな要素が複雑に混ざり合わさってできた言葉通り“よくわからない”不思議な体験だったのだろう。私にも似たような体験が何度かあり,それらを手がかりにAの話を聞いていた。
4.私の謎解き体験
『謎解きゲーム』が広く認知される前は,『リアル脱出ゲーム』に誘うことができる友達が6人もおらず,1人か2人でイベント公演に参加していた。会場に行くと同じように少人数で参加している人たちとマッチングされてテーブルに案内され,「初めまして」「よく参加されるんですか?」という会話から関係がスタートする。人との関わりに多めのエネルギーを要するコミュ障からするとちょっと頑張りが必要な時間なのだが,その後の円滑な情報共有のためには仕方がない。頑張ってアイスブレイクし,いざゲームがスタートすると,自分の見つけた情報や気になったことを「こんなのありました」「あそこのあれ,ちょっと怪しいです」などと声をかけつつ共有する。タスクの明確さと時間がないという必死さのためか考える間もなく自然と会話が生まれ,だんだんとお互いがチームに馴染んでくる。
そうして数々の謎を解き難易度の高い最後の謎には全員で挑むのだが,その時にはそこそこ仲良くなっていて,目の前の絶望的な状況をなんとかするべく,各々が気になることや思うことを呟いていく。誰かの呟きを聞いた誰かが何かをひらめき,そのひらめきを聞いた他の誰かが別の何かをひらめく。するとすでにそこにある情報が,さまざまな視点から別の意味を持ち始め,ひらめきの連鎖が生じる。最終的には,すぐそこにあるのに見えていなかった重要な情報と,たくさんの小さな違和感が見事につながり,背景の中に隠されていた真相が浮かび上がってくる。何かが生まれるようなその瞬間はため息が出るほど感動的である。
イベントが終わると我に返り,また少し気恥ずかしさを感じながら「またどこかで」と,別れを告げて日常に戻る。共に謎を解いた仲間と再び会うことは稀である。
5.謎解きゲームから心理臨床を考える
協力ゲームというジャンルのボードゲームは以前「心理面接の道具箱」でもご紹介し,協力することで味わう達成感や役割を得る体験について触れた(心理面接の道具箱(11)みんなで協力するボードゲームと落とし穴――『パンデミック』)。謎解きゲームは協力ゲームでもあるのだが体験は少し違っているように感じる。感動が伴ったより芯に響く体験なのである。謎解きゲームの体験はなぜ感動を伴うのだろうか。
考えられる理由の1つは,1回きりの新しい体験であるということである。謎解きゲームでは,パターン化された似たような展開ではなく,毎回新しい物語を体験することになる。その新規性が感動につながると考えることができるだろう。
2つ目はひらめきを他者と共に味わえるということである。謎を解き真相を知るということ自体が心を動かされる体験である。推理小説の真相を知った時,最後の結末でどんでん返しを食らった時,それと似たような感動が謎解きゲームにもある。ただそこに能動的な気づきがあること,さらにはその場に他者がいて一緒に体験できること,そのことが大きな感動になるように思える。
3つ目は,さまざまな要素が不意につながる瞬間の衝撃である。ひらめきは突然降りてくる。それは偶然のようでいて,準備段階を経た必然のようにも感じられる。ひらめきが起こる過程を振り返ってみると,まずさまざまな情報が出そろい,それらが関連の深さによって適当な距離感で配置される。それらが配置される場所は,目に見えやすいメインストーリーの流れる前景から一見すると意味のない雰囲気づくりの設定がちりばめられた背景まで層のように重なったいずれかの場のどこかである。縦軸である層と横軸である場の配置をぼやけた視点でさまざまな位置から俯瞰して見ているのだが,さまざまな情報に注意を向けるタイミングや他者の視点が入ることで俯瞰する位置が変わり,突然ピントが合う瞬間が来るのである。その時に何かをひらめき,それは衝撃と共に感動をもたらす。
これらの体験はどこか心理臨床の場で感じられるものと似てはいないだろうか。臨床の場では同じクライエントに出会うことはない。そのため,パターン化された道筋に当てはめない限りは,毎回新しい物語がクライエントによって創られ,セラピストはそこに立ち会う。2つとないその人だけの人生を目の当たりにすることはある種の感動である。また,そこで生まれる気づきはセラピストがそこにいるからこそ生まれるし,共に体験されるからこそ心が動かされ,意味を見出すことができる。さらに,長い時間をかけて繰り返し語られる物語が,何かのタイミングで別のものに変わる瞬間が突然訪れることがある。意図せず偶然に起こるからこそ意味深く感じられ,少しだが一気に世界が変わるような静かな感動が伴うのだろうと思う。
Aの体験がそうであったかはわからないし,謎解きゲームが毎回そのような瞬間を生み出す道具であるとまでは明言できない。それでも私たちセラピストがそうであるように,何か感動的な体験が生まれる場を提供する装置,枠組みとして機能することがあるかもしれない。
大島崇徳(おおしま・たかのり)
神戸松蔭大学・神戸松蔭こころのケア・センター
資格:臨床心理士,公認心理師
主な著書に『いま、カウンセラーはゲームに夢中な子どもとどう向き合えばいいのか?─つながる、わかる、支えるための心理臨床の視点』(共著,遠見書房,2025),『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。






