長行司研太(佛教大学)
シンリンラボ 第28号(2025年7月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.28 (2025, Jul.)
1.『モンスターハンター』の持つ面白さ
『モンスターハンター』(カプコン),通称『モンハン』と呼ばれる人気ゲームシリーズがある。このゲームは,生い茂る森林や広大な砂漠といった雄大な自然の中で,巨大で獰猛な竜や獣などのさまざまなモンスターにハンター(狩人)となって立ち向かっていくハンティングアクションゲームである。
2004年に第1作がPlayStation2で発売されて以降,シリーズの新作が発売される度に話題となってきた。2025年2月にはシリーズ最新作である『モンスターハンターワイルズ』が発売されたばかりであり,今作も日本のみならず世界中で話題を集め大ヒットを記録している。シリーズの累計販売本数は1億2000万本を突破し,子ども大人問わず多くの世代に愛され,プレイされているゲームである。
ゲームの流れとしてはシンプルであり,プレイヤーはモンスターを狩猟・討伐するクエスト(依頼)を選び,引き受ける → 敵モンスターと戦い,倒す → 倒すことでそのモンスターの素材(尻尾やツノ等)が手に入る,という流れになっている。それを繰り返し,素材を集めることで,見た目もカッコよく強力な武器や防具を新たに作成できるようになる。そしてまたプレイヤーは,さらに手強く強靭な敵モンスターに立ち向かっていくのである。
このゲームは,一般的なゲームでは当たり前となっている「キャラクターがレベルアップして成長する」という要素がないのも大きな特徴である。いくら強い武器や防具を身につけていても,操作が拙いとすぐにやられてしまう。何度も戦いを繰り返す中でキャラクターを操作するプレイヤー自身のゲームの操作技術が向上し,それにより敵の強力な攻撃を回避し,立ち向かえるようになっていく。最初はまったく歯が立たず倒せなかった敵を,自分の操作技術の向上により倒せるようになる。そこに楽しさを見出してこのゲームに没頭する人も多い。
こういった遊び方を,ひたすらストイックに一人で楽しむことも可能だが,このゲームがここまで世の中に浸透したのには他に理由がある。「一狩り行こうぜ!」のキャッチフレーズとともに,『モンスターハンターポータブル2ndG』や同『3rd』が携帯用ゲーム機で発売され,2000年代後半~2010年代前半にかけて中高生を中心に大流行した。この言葉はまさに『モンハン』というゲームを象徴している。友人やネット上のフレンドなど他のプレイヤーたちと誘い合わせ,協力・共闘して強大なモンスターに最大4人で挑むことが可能となっており,それがこのゲームの醍醐味にもなっている。
こうした『モンハン』を介した人と人との協力という名のコミュニケーションは,20年余りシリーズを積み重ねても,変わることなく行われている。ここでいくつか例を挙げて見てみよう。
2.『モンハン』を介したコミュニケーションの促進と関係の深まり
男子高校生のAは,高校進学とともに離ればなれになった仲の良い友人3人と,週末にスマホでLINE 通話を繋ぎながら,ネットを介して一緒に『モンハン』をプレイすることが定例となっていた。ゲーム内でそれぞれの役割をこなし,息の合った連携プレイで敵モンスターを討伐する事を繰り返しながら,同時並行でそれぞれの高校生活の出来事など他愛ない話をするのがとても楽しいのだとAは語った。
A曰く,ただLINEで話すのではダメとのことで,『モンハン』内で友人と協力しながら喋ることに意味があり,「ひたすら共同作業している感覚」が心地良いとのことだった。その際,指は意識せずとも勝手に動き,お互いの声の掛け合いも「罠張る」「OK」「次よろしく」など最低限の会話を挟みつつ,並行して日常会話で盛り上がるという,とても器用なやりとりを行っていた。
『モンハン』について,さやわか(2012)は,現実のコミュニケーションを充実させるネットゲームであると述べ,「ゲーム内の時間と現実の友達との時間が同時に進行する」というタイプのネットゲームになっている,とも述べている。この事例もまさに,二つの異なる時間やコミュニケーションが同時展開されている状態であり,Aはゲーム内で友人たちと共同作業をすることで,直接会えずともたしかに繋がれているという実感と心地良さを得ていたと考えられる。
その他にも,ゲームの仕様上,1台の家庭用ゲーム機だけでは複数人で同時にプレイできないため父親がゲーム環境を整え,父親がPC,子どもが家庭用ゲーム機で『モンハン』を一緒に通信プレイし,協力プレイを繰り返す中で親子の関係が好転したケースもある。また,他のゲームで知り合った年の離れた社会人の友人(ネットフレンド)に誘われたことをきっかけに,以前から興味のあった『モンハン』を始め,その友人と共に過ごす時間が増えたことで,より友人関係が深まった中学生のケースもある。
この場合はどちらも,『モンハン」シリーズの熟練者が初心者を導くという構図になっており,そこでお互いの思いや担う役割が合致することでコミュニケーションが促進し,両者の関係が深まるきっかけになったといえる。
3.心地良いコミュニケーションを求めて
ここまで挙げた事例はほんの一例にすぎない。『モンハン』は先述の通り,誰とも協力することなく一人でストイックに狩りに勤しむことも可能であり,そういった楽しみ方でじっくり一人でプレイし続けている人も少なくない。敵モンスターをいかに早く倒すか,一度も攻撃をくらわないように倒すかを追求し,そのために敵モンスターの行動パターンを覚え,最適な立ち回りを繰り返し練習し体に沁み込ませていく,といった楽しみ方も可能である。
そうやって一人でプレイした経験もまた,現実の友人や顔も知らないネット上の人とプレイする際に当然活かされる。通信技術の進化により,プレイヤーが望みさえすればそうした環境にすぐに身を置き,誰かとつながることが現代では可能となっている。
敵モンスターを倒すという共通の目標に向かって,プレイヤー同士がその場(もしくはネットを介したボイスチャット等)で声を掛け合いつつ,お互いをゲーム内で助け合いながら,協力して敵に立ち向かう。それは,複数のプレイヤーが協働する場所としての共通の「場」を提供(小池,2013)することになり,事例を挙げたように,そこに集う人たちの凝集性や一体感,仲間意識を高め,その関係をより深めることにもつながるだろう。
『モンハン』ではプレイヤーの数だけコミュニケーションが生まれ,自分が求める心地良い関係性やコミュニケーションを探すことができる。その中で,「一狩り行こうぜ!」と言い合える相手が見つかり,心がつながる体験ができるかもしれない。そんなふうに,人と人とをつなぐ力を『モンハン』は秘めているのである。
文 献
- さやわか(2012)僕たちのゲーム史.星海社新書.
- 小池隆太(2013)オンラインとオフラインのはざまに―ゲームにおける「動能機能」.In:日本記号学会(編)ゲーム化する世界—コンピュータゲームの記号論.新曜社,pp.147-158.
長行司研太(ちょうぎょうじ・けんた)
所属:佛教大学,京都府/市スクールカウンセラー
資格:臨床心理士,公認心理師
サブカルチャーと心理臨床の接点を探求する「サブカルチャー臨床研究会(さぶりんけん)」副代表。
主な著書に『いま、カウンセラーはゲームに夢中な子どもとどう向き合えばいいのか?─つながる、わかる、支えるための心理臨床の視点』(共著,遠見書房,2025),『サブカルチャーのこころ―オタクなカウンセラーがまじめに語ってみた』(共著,木立の文庫,2023)がある。




