心理面接の道具箱(27)発達障害とおもちゃ[5]発達障害の“感覚に合わせてチューニングする”おもちゃと遊び|白石雅一

白石雅一(宮城学院女子大学・宮城県発達障害者支援センター「えくぼ」
シンリンラボ 第27号(2025年6月号)
Clinical Psychology Laboratory, No.27 (2025, Jun.)

1.発達障害の感覚の多様性に合わせることとチューニングの必要性

これまで,当事者による手記や告白,関係者の証言,研究者の実験等から,発達障害のある人たちの「感覚の多様性」が周知されるようになりました。

例えば,視覚の依存度が高い,聴覚,嗅覚,触覚,味覚,そして,時間の感覚に過敏である,反対に皮膚感覚や痛覚に鈍感さがある人もいる,等々です。

そのような感覚の多様性や特徴が周囲の人々との間に軋轢をもたらしたり,自傷行動や破壊行動等の行動障害につながったりして,問題視されます。その反面,芸術性や創造性に結びつくと,人々を驚かせる作品を生み出して賞賛の的になることも少なくはありません。

カチカチ,トントン,クルクル,コロコロ,パラパラ,ギュッギュッ,ビュンビュン,ガッタンゴットン,ドッスンドッスン,ジャージャー等々の音刺激と,それを生み出すところの繰り返される動作と作業による感覚刺激。そこに浸る心性。そして,キラキラ,ギラギラ,ピカピカ,ピラピラ,フワフワ,デコボコ,ザラザラ,トゲトゲ等々の視覚刺激に見入る彼らの特性。

したがって,発達障害のある人に関わる際には,それら彼らの「感覚の世界」をよく知って,一緒に感覚を体験し味わい,「合わせていく」ことで“仲良くなる”ことが可能となります。

また,発達障害のある人たちにもその独特な「感覚の世界」を他者と共有できるように「チューニングする」ことを求めていきたいと,私は考えています。

そのチューニングとは,治療行為ではありません。発達障害の人の感覚への依存度や過敏さを「治す」とか「正常な範囲に戻す」という観点ではなく,刺激物を弱めたり,補ったり,除去したりして,当事者と周囲が折り合えるように「整える」ことを指します。

発達障害のある人たちは,「感覚の世界」にのめり込むばかりに,集中し過ぎ,興奮し過ぎ,やり過ぎ,調子に乗り過ぎ,独走し過ぎに陥りやすいので,適宜「休憩等のあいの手」を入れてあげて「調整する」ことが必要です。

さらには,展示会や発表会,出展の機会を設けて,そのための「枠付け」=「ルール化」をすることが大事になります。この点に関して言えば,いくら「鋭敏で迫力ある感覚の世界が投影されている作品」であっても,人々に公開されなければ「個人のなぐり書き」で終わってしまいます。芸術作品は,ある程度の「枠=社会のルール」に沿ってこそ,「作品」として称され,後世に残されて,当事者の「承認欲求」を満たし,「自信」になるのだと思います。

発達障害のある人の「感覚の多様性」は,他者との「チューニング」によって,「問題」ではなくなり,「芸術性や創造性」に発展する可能性を帯びていきます。

2.スーパーボールとセクションケース

〜視覚と聴覚と触覚を心地良く刺激するおもちゃ教材①〜

発達障害のある人の中でも,特に自閉スペクトラム症(ASD)の人たちは,「視覚刺激」と「聴覚刺激」,「感覚刺激」を「好む」傾向にあります。

これらの「好む」感覚,すなわちASDの人たちが「好き!」な感覚を上手に活用(チューニング)することで,彼らの“退屈な時間”に「潤い」を与えたり,“不安や恐怖の予感”を「緩和」させたりして,“苦手”を克服することができるようになります。

その具体策が【写真-1】から【写真-6】に示した「スーパーボールとセクションケース」で作るおもちゃ教材です。

【写真-1】スーパーボール

【写真-1】にある色とりどりのスーパーボールの「見た目」の印象はいかがですか?視覚的に「キラキラと輝き」「色鮮やか」「透明で透けて見える」「キレイ!」「かわいい!」という「好印象」を強く与えると思います。これらは,100円ショップのSeriaで購入することができます。

【写真-2】スーパーボールとセクションケース
【写真-3】セクションケースに収まったスーパーボール(1)
【写真-4】セクションケースに収まったスーパーボール(2)

そして,これらのスーパーボールを同じく100円ショップのDaisoで購入したセクションケース(別名:仕切りケース,パーツボックス)に収めてみます(【写真-2】【写真-4】)。すると,これまた,キレイなスーパーボールたちが「美しく整列」して,視覚を楽しませてくれます。

【写真-5】スーパーボールをセクションケースごと揺する
【写真-6】スーパーボールをセクションケースごと両手で揺する

さらに,このセクションケースを【写真-5】【写真-6】のようにして,上下左右に揺すってみますと,「カラカラカラカラ」という反響音と「ゴロゴロゴロゴロ」という確かな振動とが,聴覚と触覚を心地良く刺激してくれます。

スーパーボールの視覚刺激とスーパーボールとセクションケースが織りなす聴覚刺激と触覚刺激の妙で,ASDの子どもの「好き!」という心を掴むのは間違いありません。

ASDの子どもは,退屈で心が折れそうな時,不安や恐怖で押しつぶされそうな時,この「スーパーボールとセクションケース」のおもちゃ教材での「視覚・聴覚・触覚の3点セットの刺激」でもって,窮状をやり過ごすことができるでしょう。

3.ボール型ビーズとモールで感覚刺激を増す

〜視覚と聴覚と触覚を心地良く刺激するおもちゃ教材②〜

色とりどりのスーパーボールの視覚刺激とセクションケースからの聴覚刺激と振動の触覚刺激の効果で,快感,満足に浸るASDの子どもたちの姿が目に浮かぶようです。

しかし,ASDの人たちには,「変えない」「やめない」「始めない」というこだわり行動があるので,適宜,チューニングのための介入が必要になります。

その際,大切なポイントがあります。それは,「少しずつ変える」というやり方です。

今回は,親指大のスーパーボールを“小指大のボール型ビーズ”に替えて,チューニングを進めていくことにします。

【写真-7】ボール型ビーズとセクションケース

【写真-7】の吊してあるボール形ビーズ(商品名:スポーツビーズ)は,左から,バレーボール→ラグビーボール→サッカーボール→野球ボール→テニスボール→バスケットボールの6種類になります。これらのビーズは,穴がとても大きいのが特徴ですしミソです。

【写真-8】セクションケースに収まったボール型ビーズ

そして,ビーズの下に置いてあるのが,先掲のスーパーボール用のセクションケースと外形は同じでも中の仕切りサイズが小さいタイプ(仕切りスペースが6×5の計30個)のセクションケースです。つまり,上記6種類のボール型ビーズがスッポリ収納できる枠組みを有しています(【写真-8】参照)。以上,スポーツビーズとセクションケースはDaisoの商品です。

【写真-9】ボール型ビーズをセクションケースごと振ってみる

このボール型ビーズがスッポリと収まっているセクションケースを上下左右に振ってみます(【写真-9】)。今度は,「カチカチカチカチ」という小気味よい反響音と「コロコロコロコロ」という小さな振動が指先に伝わってきて,これまた,気持ち良く聴覚と触覚を刺激してくれます。

【写真-10】ボール型ビーズが穴を上にする

さらに,楽しいのは,上記のように 「カチカチカチカチ」,「コロコロコロコロ」とセクションケースを振り続けていると,中のボール型ビーズが大きな穴を上に向けて“揃ってくる”ことです(【写真-10】参照)。時間をかければ,全部のビーズの穴を上に向けて揃えることも可能でしょうが,今回はそれを求めたゲームではないので,適当に揃ったところで,後は手動で揃えて,次に進みます。

【写真-11】ボール型ビーズとモールの登場

ここで登場させるのが「モール」です(【写真-11】)。これもDaisoの商品です。

【写真-12】ボール型ビーズの穴とモールの先端
【写真-13】ボール型ビーズの穴にモールの先端を刺す

流通しているモールの多くは2〜3mmの幅なので,小さいビーズの小さい穴には通すことはできませんが,ボール型ビーズならば,穴が大きいのでモールの先端を「ギュゥ」と突き刺すと「スゥッ」と貫通してくれます(【写真-12】)。しかも,素材がケバケバのあるモールですから,ケバケバがビーズの穴の側面に引っかかって,ビーズがモールから落下することを防いでくれます(【写真-13】)。

【写真-14】ボール型ビーズ2個目にモールの先端を刺す
【写真-15】ボール型ビーズ3個目にモールの先端を刺す
【写真-16】ボール型ビーズ5個目にモールの先端を刺す
【写真-17】次のレーンのボール型ビーズに移る
【写真-18】さらに次のレーンに移る

つまり,モールがビーズを保持してくれるという,「安心感」が生まれます。だから,次々に刺していけば,次から次にビーズがモールの上に押し上げられていき,あっという間に,ボール型ビーズの数珠つなぎができていきます(【写真-14】【写真-18】)。

【写真-19】連なったビーズを上へと押し上げて,モールの先端を引き出して続ける

ただし,モールは,芯も柔らかいので,一度に突き刺せるビーズの数に限りがあります。したがって,【写真-19】にあるように,一旦,ビーズを指で上方に引き上げて,モールの先端を引き出してから,作業を続けると良いでしょう。

【写真-20】ボール型ビーズの数珠つなぎと空になったセクションケース

モールをボール型ビーズに「ギュゥ」と突き刺し「スゥッ」と貫通させることの繰り返しは快感です。そして,長いモールがボール型ビーズの数珠になり,全ての仕切りスペースが空になったセクションケースを眺めるのは爽快です(【写真-20】)。

まとめ

実は,私たち定型発達の人間にもいろいろな「感覚の世界」があります。その一例が「クルマ」に関する「選り好み」の感覚でしょう。クルマのボディーの赤や白,黒,グレー,そして青等々のカラーは,所有者の感覚的な嗜好がハッキリと投影されます。また,乗り心地や静粛性,エンジンのパワー,音,タイヤのノイズ等々,クルマにうるさい人々の「感覚基準」は,際限なく存在します。

「そんな感覚的なこだわりなんて,どうでもいいでしょう!」と一笑に付す人と,カーマニアは友だちになれません。同じような「感覚」をもち,それを大切にする人々が仲間になっていきます。

だから,発達障害の人たちがもつ「感覚の世界」も分かって欲しいと思います。そして,彼らと同じように感覚の心地よさや多様性を体感するように,私たちの感覚を合わせられれば,友だちになれると思います。そのうえで,支援や保育,教育のアプローチを考える立場の方々は,チューニングという方法も取り入れてください。

以上のために,まず,スーパーボールとセクションケースのご用意をお勧めします。

白石雅一『おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育』

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白石雅一(しらいし・まさかず)
宮城学院女子大学 宮城県発達障害者支援センター「えくぼ」
資格:臨床心理士,公認心理師,介護福祉士
療育のためのおもちゃ教材の開発に心血を注ぐ。メーカーに意見したくて懸賞論文に応募して,表彰式で社長に提言した(リカちゃん人形で有名なタカラの当時の社長さん)。
新著に『おもちゃ教材で育む人間関係と自閉スペクトラム症の療育』(東京書籍,2024)がある。

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